Packard, Randall M. White Plague, Black Labor : Tuberculosis and the Political Economy of Health and Disease in South Africa. University of California Press, 1989.
青木, 正和. 結核の歴史 : 日本社会との関わりその過去、現在、未来. 講談社, 2003.
結核の授業で結核の上昇と低下の双方に産業革命が密接な関連を持っていた話をした。イギリスを筆頭に、それから世界各地で産業革命が進行して、それが持つ幾つかの要因が、あるものは結核を上昇させ、あるものは結核を減少させたという古典的な議論である。イギリスの rise and fall の話があり、エンゲルスのマンチェスター報告があり、マキーオンの栄養状態の話があり、スレーターの批判がある。それに日本の女工哀史の話をつけて、日本においても産業革命が重要であったという話を出す。いつものパターンである。
昨日の授業では新しい話をつけようとしたが、時間の不足でうまくできなかった。それが南アフリカの話である。パッカード先生の White Plague, Black Labor という傑作があり、それをもう一度読んで考えているうちに、日本の結核が南アフリカと類似な部分が多いという議論を作ることができる。南アフリカでは金やダイヤモンドの鉱山で近代化の居住の構造などが作られ、そこには白人ではなくアフリカ現地人の男性が集中したため、地方部の鉱山地帯で、結核の近代的な疾病の構造が作られるという面白い現象が起きる。現在の死亡率でいうと、黒人、有色人、アジア人をたして99%、白人はたったの1% である。それと類似しているのか、日本では女性が結核の被害者になっている。地方部の若い女性が繊維産業の女工にやとわれ、そこの生物学的な人口密度の問題や、そのような新しい地域の社会・文化・感情の新しさのため、結核の死亡が女性のほうが多いというユニークな現象が起きている。In Japan, modernity in the body took place first in young women's bodies. ということになる。
もう一つ面白いのが、死亡率の劇的な減少の問題である。1940年代から開発されたストレプトマイシンや PAS (para‐aminosalicylic acid)は、1950年代からの結核の死亡率を南アフリカでも日本でも激減させた。この激減と喜ばしい感覚はその通りである。ただ、ヨーロッパや北米やAU/NZ のような、長い経済と社会の動きの中で結核が減少した過程と比べると、日本と南アフリカでは、薬だけでミラクルが起こされたという性格が非常に強い。また、これらの薬が起こしたのは、死亡の減少であって、罹患の減少は劇的ではないとのこと。だから、現在でも日本の結核の罹患は、いまだに中程度で、日本が多くの部門でもたらす世界有数の良いパフォーマンスを見せることができないのかもしれない。