哲学と歴史学について

加藤、尚武. "人間と人間でない生物の関係." 加藤尚武著作集, edited by 加藤、尚武, vol. 6, 2015, pp. 417-422.
 
2018年の夏に、故金森先生を追悼する雑誌の編集にかかわった。意外に重要な影響を私自身に持つ貴重な経験をした。医学史のあり方や私自身にとって一つの新しい方向と呼べるかもしれない。直接的に大切なのは、歴史学が哲学から孤立してはいけないということである。駒場科学史・科学哲学という講座の、基本的で非常に大切な枠組みと関係している。今回の石原先生のご著書の合評会では、まさに駒場で行われる合評会であるし、歴史学者と哲学者がどう共存してお互いによい影響を与えられるかという主題で話そうと思う。
 
その中で、加藤尚武先生の短文を読んで、とても面白かった。加藤先生は、その短文の冒頭で、ホッブズの「人間は人間にとって狼である」という考えを紹介する。個人はエゴイストで自分以外のすべてのものを自分の生存や快適の手段とするという考えである。この哲学的であり、法的で政治的な議論は、経済の議論も重ねられる。経済人 homo economicus という自己利益の最大化を目的とする生き物のことであるという考えと、進化論が定義するすべての個体は自己利益を最優先するという考えを重ねる。学問領域でいうと、哲学、経済学、進化論という巨大な領域を複数にわたってまたぐ、大きな考え方を設定している。ちなみに西洋と東洋も似たようなものだという。
 
そこから、道徳が自らの起源は何かということに関して大きな変換をしたのが20世紀後半の議論だという。宗教や社会ではなく、自然世界に基盤を持つようになった。ことに新しい共存的な進化論や新しい遺伝子学に基づいた、倫理的な価値観が現れる。コンラート・ローレンツやE.O. ウィルソンなどをもう一度読もう。これまで読んだことがないジェーン・グドールのチンパンジー論も読んでみよう。動物と人間が作っているエコシステムの話を勉強しよう。こう考えることが、故金森先生の遺産だと思う。
 
一方で、加藤先生が医学史を取り上げて論じている部分は、歴史学的には取り扱いが非常に粗雑である。毛皮のコート、クジラの骨のコルセット、象牙の楽器、鼈甲のめがねなどと並んで、医薬品の材料である動物や、医学の発達にかかすことのできない動物実験という並べ方は、無茶に近い並べ方である(笑)。歴史学者としては、この部分を正確に記述して、同時に哲学や進化論と結びついていく必要があるのだろう。