中国に対する日本軍の細菌戦と同姓村

上田, 信. ペストと村: 七三一部隊の細菌戦と被害者のトラウマ. vol. 1, 風響社, 2009. 風響社あじあ選書.

上田先生のペスト論。こちらは18世紀から19世紀の雲南省で起きて、第三回のパンデミックを起こしたペストではなくて、731部隊が中国の村に細菌を放った細菌戦の戦争犯罪の本である。この細菌戦は色々な意味で明白であり、日本政府も謝罪するべきなのに、そのあたりをうやむやにしてしまうことが、なぜか分からない習慣となっている。本当に申し訳ないと個人として思う。

ポイントは別のところにある。144ページからメモ。崇山村という400名ほどが死亡した村が「王」という姓の同姓村であったことに着目した点である。普通は父系親族の団結が強く、その村の青少年に科挙試験を受ける便宜を与えたり、他の村と対立したときには力を合わせて村の内部は団結する。しかし、戦火や飢饉に対しては、村の内部の限られた資源の奪い合いがおいて、同族内部の緊張が高まる。そのようなときには、姻戚関係を頼って、族人を文さんすることで乗り越えることができる。疎開時に深められた姻戚との関係は、再構築した同族集団に活力を与える。

ここで問題なのが、感染症がポイントであるという特殊な場合である。姻戚関係を利用する疎開が、伝染病を拡散することになる。そのため、周囲の村々と友好関係を保つことが難しい。そのため崇山村では、細菌戦の被害を受けた後、地域社会の他の村落から孤立する傾向があった。