ワインと医学の歴史

Robinson, Jancis and Julia Harding. The Oxford Companion to Wine. 3rd ed. / edited by Jancis Robinson ;  assistant editor, Julia Harding edition, Oxford University Press, 2006
 
Arnaldus, de Villanova. "The Earliest Printed Book on Wine / by Arnald of Villanova ; Now for the First Time  Rendered into English, and with an Historical Essay, by Henry E. Sigerist ; with Facsimile of the  Original Edition, 1478." Schuman's, Fri Jan 01 00:00:00 BST 1943 1943, pp. 0-0.
 
Villanova, Arnaldo da. Tratato dui vini. 2015.
 
2015年にオクスフォードのワイン百科事典の第4版が出た。そのうち買いたいけれども、まだ買っておらず、2006年の第3版を見ている。今朝、休日の朝のゆっくりした時間にふと気がついて medicine という項目を見たら、1ページの2/3くらいを占拠する面白い巨大エントリーだったので、それをメモ。
 
古代から18世紀までワインは医療の中で重要なものであった。宗教とも深く結びついていた。最初のエントリーはエジプトのパピルスや、シュメールの2200BCEの書字版にワインの効果が書き込まれている。医薬の中でもっとも古い記録はワインについての記入であるとのこと。ギリシアではヒポクラテスの言説があり、ガレノスは剣闘士の医師を務めていた時期があるだけに、傷を消毒するものとしての記述が細かい。ケルススは産地ごとにワインの効力を評価するという部分がある。新約聖書ルカによる福音書には「善きサマリア人のたとえ」があり、強盗に襲われて傷ついた旅人に「オリーブ油とワイン」を塗ってケアをする部分がある。イスラム教の文化は、もちろんガレノスを読んでよく知っていたと同時に、コーランがアルコールを飲むことを禁じている(らしい)ので、ワインを傷口などに塗ることだけ進めている。中世においては、修道院が強力なワインの産地となった。モンペリエのアルベルト・ド・ヴィラノバがワインについて論じた。12世紀に導入された蒸留器がワインを加工して利用する道を開いた。ワインを加工してさまざまなものをまぜて aqua vitae と呼ばれたワイン系の飲み物は、消毒の機能も高く持っていた。
 
19世紀にはワインの意味合いが変る。しかし利用は続けられ、1892年のハンブルクでのコレラ流行でもワインのアルコールが消毒に用いられていた。20世紀にはポートが療養や回復に使われていた(ヒヤヒヤ)。医者が論争にかかわるありさまもあり、フランスでは、ルイ14世の侍医が、シャンパンを批判してブルゴーニュを称賛するということをしているとのこと。
 
引用されていたジゲリストの論文は、ヴィラノバのラテン語を英訳したもの。もちろんこれは手に入らない。しかし、しっかりした学術的な仕事で、ラテン語原文とイタリア語訳が Kindle で600円くらいで売っている。