『パタゴニアにて』

イギリスの作家であるブルース・チャトウィンが In Patagonia という小説を 1977年に出版している。日本語訳は1986年。パタゴニアという場所が持つ重層的な要素を淡々と描いている素晴らしい作品である。チャウィン自身はバーミンガムの出身で、サザビーズで成功したが、10年ほど仕事をしてすぐに退職して物書きになった。その中で In Patagonia を書くが、これが非常な深みを持っている。沙漠に面した辺境に住む、原住民のインディオスたちが影響を及ぼしているシンプルな社会があり、世界の各地からやってきてパタゴニアで暮らしている人々がいる。ウェールズ人、スペイン人、ドイツ人、イタリア人などが、それぞれの時期に移民をして、そこで不思議な国際性を持ち、同時にそれぞれの国にこだわっている社会となっている。
 
私が暮らしているいくつかの街や村も、こんな風に見える。東京や横浜はもちろん国際都市であり、慶應国際大学になっている。静岡も国際性があるし、私が住む富士の東海道から山を一つ越えた村も、さまざまな国からやってきた人たちが仕事をしている。彼らと話す機会があれば、いろいろと楽しい話や哀しい話を聞くことができる。それがパタゴニアであるという意識も、楽しく哀しい。