レヴィ=ストロースのインディアンの治療師と社会的合意

医学史を学ぶことをどのように正当化するかという問題がある。ことに現代の医療は数多くの疾病に関して優れた治療法を持つようになったことが、そこから過去のヨーロッパの医療を研究することがどのような意味を持つかという問いがある。医学史家が研究している長い時代が、ほとんど効かない治療法を用いていた。その時代は非常に長く、古代、中世、初期近代、そして1900年ごろまでは、ほとんど効かなかったと考えていい。これが20世紀のどこかの段階で治療法が発見され、治療法の前進の時期に入る。治療だけに注目すると、医学の歴史が意味を持つのは20世紀に入ってからになる。それなら1900年以前の医学史は、ことに医学部の学生にとって意味があるのかという問いである。
 
その問いに答える一つの発想が、レヴィ=ストロース構造人類学』の中の有名なインディアンの治療師についての分析である。治療の有効性を実際に効くかどうかという基準と、その治療師が社会的に信用されているかという基準の二つの組み合わせで理解している。ヴァンクーバーのインディアンにおける治療師を見ると、実際に治療できるから信頼されるのではなく、社会的な合意があるから治療への信頼が発生する。こう考えると社会的な合意を作る方法は複雑で何通りもあった。近現代に移動するまえには、科学的な結果に基づく証拠の説得力は低く、宗教や文学や哲学の力のほうが大きかった。近現代の治療法の劇的な発展は、たしかに力のバランスを移動させた。しかし、それは完全に治すことではなく、現代から死がなくなったわけではない。