いま、ロンドンの Tate Modern で開催中のジャコメッティ展のカタログが送られてきたから、土曜の朝に読んだ。昨日の二つの仕事で、春学期の仕事がだいたい終わり、少しみずみずしい時間を持つことができた。
ジャコメッティの彫像は記憶に残る。内面や感情や存在など、とにかく余分なものをすべてこそぎ落したかのような線状の彫像は、話しかければ答えてくれそうな何かを持っている。しかし、そのような作品は後期のものであり、戦前にはシュールレアリスムの作品など、興味深いものをたくさん発表している。16世紀のデューラーの『メレンコリア I』の多面体を写し取ったようなオブジェや、幾何学的な立体で表現された男女の性交、「不愉快な物体」と名付けられた男性器のオブジェ(先頭部には梅毒の腫瘍のようなものがある)など、どれもとても面白かった。
著明な彫像を作っていた時期の作品でも、人物が枠に捉われていて、Cage (檻)というタイトルがつけられた彫像や描画も複数あって、新鮮な視角だった。晩年の描画で、矢内原伊作を描いたものがあり、パリに対談にきたとのこと。矢内原伊作は矢内原忠雄の長男で、実存主義などの哲学の研究者であった。対話自身は『ジャコメッティとの対話』としてみすず書房から刊行されている。カタログには、ジャコメッティが認めて、妻のアネッテと短期間ロマンティックな関係を結んだという面白い情報も書いてあった。