Entries from 2010-01-01 to 1 year

性病検診

必要があって、近代日本の「性の歴史学」を論じた著作を参照する。藤目ゆき『性の歴史学―公娼制度・堕胎罪体制から売春防止法・優生保護法体制へ』(東京:不二出版、2005)。性病検査というと、性病の原因はすべて売春婦にありという前提のもとで、国家権力…

『日本語 語感の辞典』

ちょっと評判になった岩波の『日本語 語感の辞典』を買って少し眺めてみた。英語を書くときに便利なシソーラスやコロケーション辞書が日本語にもあればいいなとずっと思っていて、電子辞書についている大修館の類義語辞典をわりと使っているが、この『語感の…

フォントの雑学本

冬休みに気楽なフォントの雑学の本を読む。文献は、Garfield, Simon, Just My Type: a Book about Fonts (London: Profile Books, 2010).フォントに対する関心は、かつては印刷にこだわる文人や芸術家に限られていたが、地下鉄や地名の表示など公共の場での…

満州の伝道医師

必要があって、1883年から40年間にわたって、満州の奉天で伝道医療を行っていたスコットランド人のデュガルト・クリスティーの自伝の翻訳を読む。訳者は矢内原忠雄。もとは、1914年に『奉天での30年間』という題で出版された書物を1938年に訳したものである…

三つのインフルエンザ流行

必要があって、三つのインフルエンザ流行における報道のありかたの違いを分析した書物を読む。文献は、Blakely, Debra E., Mass Mediated Disease: a Case Study Analysis of Three Flu Pandemics and Public Health Policy (Lanham, MD.: Lexington Books, …

情報を二次元で表現すること

学生に教えられた書物を読む。文献は、Tufte, Edward R., Envisioning Information (Cheshire, Connecticut: Graphics Press, 1990).名著だと聞いていたけれども、なるほど、さすがに名著である。統計、(加工した)写真、地図、時刻表、ダンスのコレオグラ…

パワーポイントの認識形式

学生に勧められた著者の他の著作を読む。文献は、Tufte, Edward R., The Cognitive Style of PowerPoint (Cheshire, Connecticut: Graphics Press, 2003).パワーポイントというのは、GISと並んで、私が手を焼いているIT技術である。私がGISで作ったGISがみっ…

インフルエンザ

新着雑誌から、1889-93年のインフルエンザのパンデミーについての研究。Honigbaum, Mark, “The Great Dread: Cultural and Psychological Impacts and Responses to the ‘Russian’ Influenza in the United Kingdom, 1889-1893”, Social History of Medicin…

無名の明治海外留学の医師たち

同じく新着雑誌より。明治末までに外国に渡航した日本人医師763名についてのプロソポグラフィ。文献は、Donzé, Pierre-Yves, “Studies Abroad by Japanese Doctors: a Prosopographic Analysis of the Nameless Practitioners”, Social History of Medicine,…

治療者がいなくなったらどうするか

新着雑誌から。16-18世紀のジュネーブにおける宗教改革が起こした医療市場の変化を論じた論文。Rieder, Philip. “Miracles and Heretics: Protestants and Catholic Healing Practices in and around Geneva 1530-1750”, Social History of Medicine, 23(20…

堀辰雄『大和路・信濃路』

先日読んだ亀井勝一郎『大和古寺風物詩』をアマゾンで買った時に、堀辰雄『大和路』もどうですかと進められた本。ずっと前に、父親の書棚の日本文学全集で読んだけれども、大概忘れていた。新潮文庫に、ほかの評論とともにおさめられている。堀辰雄の『大和…

ロンブローゾ『男性犯罪者』

必要があって、ロンブローゾ『男性犯罪者』をチェックする。文献は、Lombroso, Cesare, Criminal Man, translated and with a new introduction by Mary Gibson and Nicole Harn Rafter (Durham: Duke University Press, 2006).ロンブローゾの『女性犯罪者』…

反健康

送られてきた新刊の案内のイントロがウェブ上にアップされていたので、喜んでそれを読む。文献は、Metzl, Jonathan M. and Anna Kirkland, eds., Against Health: How Health Became the New Morality (New York: NYU Press, 2010).著者は、精神分裂病の診断…

精神医学の悪用―黒人奴隷の「逃亡狂」

必要があって、精神医学の悪用として最も悪名高い、アメリカ南部の医者が黒人奴隷が自由を求めて逃亡するのを「逃亡狂」(drapetomania) として精神病とした記述が現れた文章を全文読む。文献は、Cartwright, Samuel A., “Report on the Diseases and Physica…

養生訓と老齢者介護の食事

モル先生のセミナーの準備のために、貝原益軒『養生訓』と香月牛山『老人必要養草』(正徳6年、日本衛生文庫に再録)を読む。世帯のエトスに基いた老人介護のヴィジョンが語られている。年をとったら若い時とは違った養生法が必要だというのは中国の古典以来…

介護と食の文化人類学

オランダの人類学者・哲学者のAnnemarie Mol先生のセミナー用のマテリアルから。オランダのあるナーシングホームで、ある老人が旺盛な食欲で「バミ・ゴレン」という食べ物を食べていることから話が始まる。かつてのように一律に施設食を与えるのではなく、文…

フーコー「ヘテロトピア」

必要があって、フーコーのヘテロトピア論を読む。文献は、Foucault, Michel, “Of Other Spaces”, Diacritics, 16(1986), 22-27. ごく短いエッセイで、dangerous individuals と並んで、私が好きなフーコーの小品である19世紀末と20世紀末から現在という二つ…

ジュンパ・ラヒリ『停電の夜に』

この短編集の原題は Interpreter of Maladies といい、そういうタイトルの短編がある。その作品を借りだそうとしていた私に、秘書が、翻訳なら持っていますよというから、翻訳を借りた。日本の文芸書は、美しい装丁に端正な活字が使われていて、手に取って開…

保健所が集めた山形の衛生迷信

必要があって、山形県の寒河江の保健所が収集した衛生についての迷信集を読む。文献は、山形県寒河江保健所『山形県西村山郡内に流布する迷信・俗信』(寒河江:山形県寒河江保健所睦会、1954)昭和28年の夏休みを利用して、小学校を通じて家の人や部落の人…

オーストラリア・ニュージーランドの精神医療史

必要があって、オーストラリア・ニュージーランドの精神医療史を論じた書物を読む。文献は、Coleborne, Catharine, Madness in the Family: Insanity and Insitutions in the Australasian Colonial World, 1860-1914 (Basingstoke: Macmillan, 2010).AUとNZ…

精神医療の歴史

めったに見ないレファレンスを参照する。文献は、Stone, Michael H., Healing the Mind: a History of Psychiatry from Antiquity to the Present (London: Pimlico, 1998).歴史書というよりも、中項目を年代順に並べたレファレンスで、うまく使えばきっと役…

病理学・臨床医学・変質理論

必要があって、変質理論と病理・臨床といった「ハードな」医療科学のかかわりについて論じた論文を読む。Lawrence, Christopher, “Degeneration under the Microscope at the fin de siecle”, Annals of Science, 66(2009), 455-471.扱っている素材は主とし…

素質概念の歴史

未読山から、医学における素質・体質概念の歴史を眺めた論文を読む。文献は、Ackerknecht, Erwin H., “Diathesis: the Word and the Concep in Medical History”, Bulletin of the History of Medicine, 56(1982), 317-325.著名な碩学の論文だけれども、史実…

芸術新潮「恋する春画」

今月号の芸術新潮は春画特集。美しい印刷でたぶんレアな春画がたくさん掲載されているし、早川聞多などの権威や橋本治などの才人が解説を書いているので、この号は売り切れるのかもしれない(笑)とてもたくさん勉強させていただいて、春画は人に送ったとか…

エラスムス『キリスト教徒の君主の教育について』

必要があって、エラスムスの『キリスト教徒の君主の教育について』(1516)を読む。Erasmus, The Education of a Christian Prince, edited by Lisa Jardine (Cambridge: Cambridge University Press, 1997).15世紀から16世紀のヨーロッパの君主たちが繰り広…

ペッテンコーファーと医療の経済学

ペッテンコーファーの論文を読み直し。文献は、Pettenkofer, Max von., “The Value of Health to a City: Two Lectures Delivered in 1874”, translated from the German, with an introduction by Henry E. Sigerist, Bulletin of the History of Medicine,…

悪魔祓いのマニュアル

必要があって、16世紀の悪魔祓いのマニュアルを読む。文献は、Menghi, Girolamo, Devil’s Scourge: Exorcism during the Italian Renaissance, translation, introduction and commentary by Gaetano Paxia (Boston: Weiserbooks, 2002). この場合の「必要」…

ジョゼフ・ライト・オヴ・ダービー

ジョゼフ・ライト・オヴ・ダービーの有名な絵画『空気ポンプ』についての議論を確認する必要があって、だいぶ昔に読んだ本をもう一度読み直す。文献は、Solkin, David H., Painting for Money: the Visual Arts and the Public Sphere in Eighteenth-Century…

ヘルマン・ブールハーヴェ

必要があって、17-18世紀の「ヨーロッパすべてを教えた医学教師」、ブールハーヴェの伝記を読む。文献は、Lindeboom, G.A., Herman Boerhaave: the Man and His Work, 2nd edition (Rotterdam: Erasmus Publishing, 2007). 20年くらい前は、この著者の書物…

敬意の経済学

必要があって、「敬意の経済学」についての論文を読む。文献は、Offer, Avner, “Between the Gift and the Market: the Economy of Regard”, Economic History Review, 50(1997), 450-476. 戦前の日本の精神医療の歴史を研究していて、そこには、公立精神病…