Entries from 2012-01-01 to 1 year

アメリカの美容整形と日系移民

Haiken, Elizabeth, Venus Envy: A History of Cosmetic Surgery (Baltimore: The Johns Hopkins University Press, 1997)美容整形の歴史についての最初の洗練された書物である。20世紀のアメリカとその影響圏を中心としている。「マイケル・ジャクソン・フ…

キットラーと精神医療のメディア(媒介)

Winthrop-Young, Geoffrey, Kittler and the Media (Cambridge: Polity Press, 2011)王子脳病院の症例誌分析をする中で、ある個所においては、20世紀前半についてのメディア論が本格的に必要になったので、メディア論を読む。フリードリッヒ・キットラーは、…

横溝正史『髑髏検校』とストーカー『ドラキュラ』の精神病患者

『髑髏検校』「髑髏検校」は金田一耕介もので有名な横溝正史が昭和14年に『奇譚』に分載した作品であり、ブラム・ストーカーの『ドラキュラ』(1897)を忠実になぞって、舞台を将軍家斉の江戸に移し替えた吸血鬼ものである。『ドラキュラ』が、中世と伝奇のト…

熱帯生存圏の論文集から

杉原薫「熱帯生存圏の歴史的射程」杉原薫・脇村孝平・藤田幸一・田辺明生編『歴史のなかの熱帯生存圏―温帯パラダイムを超えて』(京都:京都大学出版会、2012), 1-28;脇村孝平「人類史における生存基盤と熱帯―湿潤地帯・半乾燥地帯・乾燥亜熱帯」杉原薫・脇…

「見世物」と19世紀両性具有研究のパラダイム

Mak, Geertje, “Hermaphrodites on Show. The Case of Katharina / Karl Hohmann and its Use in Nineteenth-century Medical Science”, Social History of Medicine, vol.25, no.1, 2012: 65-83.今年の5月に Doubting Sex という19世紀から20世紀の両性具有…

長期持続の受療の歴史―近世イングランドの薬の輸入

Wallis, Patrick, “Exotic Drugs and English Medicine: England’s Drug Trade, c.1550-c.1800”, Social History of Medicine, vol.25, no.1, 2012: 20-46.パトリック・ウォリスはLSEの先生で、17世紀から19世紀までの医療と経済について水準が高い研究を数…

通経薬と催淫・生殖

Evans, Jennifer, “’Gentle Purges corrected with hot Spices, whether they work or not, do vehemently provoke Venery’: Menstrural Provocation and Procreation in Early Modern England”, Social History of Medicine, vol.25, no.1, 2012: 2-19.月経…

兵頭晶子「民間治療場の日本近代」

兵頭晶子「民間治療場の日本近代―『治療の場所』の歴史から」『臨床心理学研究』50(2012), no.1, 2-14.同じくいただいた論文を読む。現在の日本における精神医療は精神病院が主軸になっており、先進国の中では精神病院の数が圧倒的に多い。この状況はしばら…

ギリシア医学と宗教的治療

東雅夫『世界幻想文学大全 怪奇小説精華』を読んでいたら、たまたま、その冒頭に置かれた作品が医学史の視点から見た時にとても重要だったのでメモをした。ルキアノスの「嘘好き、または懐疑者」という作品で、もともとはルキアノス『本当の話』の中に収録さ…

横溝正史「生ける死仮面」「蝋美人」

横溝正史「生ける死仮面」「蝋美人」横溝正史『首』(角川文庫)に収録されている二つの短編の医学的な背景についてメモ。「生ける死仮面」は同性愛と男娼をめぐる短編。東京杉並に住む彫刻家が、上野の男娼であると思われた17,8才の美少年をアトリエに運び…

兵頭晶子「『双葉病院事件』をめぐって」

兵頭晶子「『双葉病院事件』をめぐって」『情況』2011年、6・7月合併号、152-156.著者から論文をいただいた。福島第一原発の事故にまつわる精神科病院における患者の死亡問題に触れた短い記事である。福島第一原発と同じ大熊町に位置する精神科病院である双…

横溝正史「真珠郎」と精神病質者の製作

『真珠郎』は横溝正史の初期の作品。1936-37年の雑誌『新青年』に連載された。美少年で残虐で道徳心のかけらも持たない精神病質的な殺人者「真珠郎」が、医者によって遺伝と環境の双方を通じて製作されることが重要な設定になっている。「真珠郎」は無慈悲…

横溝正史「蔵の中」と結核患者

昨日は「面影草紙」の人間模型をメモしたが、もともとはこの文庫本『蔵の中』に収録された表題作の短編を読もうとして買った。「蔵の中」は1935年に雑誌『新青年』に発表された中編で、耳が不自由な美しい姉と美少年の弟の近親相姦的な思いを背景にした物語…

横溝正史「面影草紙」と人体模型

金田一耕介で有名な横溝正史が書いた作品には、医学、病気、遺伝の主題と深い関連を持つものが多い。凶悪な犯罪者の遺伝についての優生学的な発想も重要であるし、死体、病気、損壊された人体、障害を受けた人体についてのグロテスクな記述も当時流通してい…

念仏と狂気と往生

木曜日から土曜日まで続いた国際学会が終わった。日曜の午後は安楽椅子に座って、須永朝彦『江戸奇談怪談集』(ちくま文庫)をのんびりとめくってはうつらうつらする贅沢な時間を過ごした。その中で神谷養勇軒『新著聞集』の第十三「往生編」の「網曳利兵衛…

中村禎里『日本近世の生命観(1) 身体と生命』

中村禎里『日本近世の生命観(1) 身体と生命』(東京:私費出版、2012)中村先生は日本の生物学史研究の第一人者であり、ルイセンコ論争、ハーヴィの血液循環から、狐や狸の民俗学まで多くの書物を出版している。この書物は生殖器の解剖学と生殖の生理学に…

「座談会 被占領心理」(1950年)

丸山真男・竹内好・前田陽一・島崎敏樹・篠原正瑛「座談会 被占領心理」『展望』1950 年8月号、48-63.1950年にGHQによる占領がちょうど5年になったこともあり、丸山真男と精神科医の島崎敏樹、それにドイツ、フランス、中国の文化や思想を研究する学者・知識…

デュボス『パストゥール』

ルネ・デュボス『パストゥール―世紀を超えた生命科学への洞察』トーマス・D・ブロック編集、長木大三・岸田綱太郎・田口文章訳(東京:学会出版センター、1996)ルネ・デュボスはフランスからアメリカに渡った医学者である。専門は微生物学で、生態系や社会…

Andrew Scull, Madness: A Very Short Introduction

Scull, Andrew, Madness: A Very Short Introduction (Oxford: Oxford University Press, 2011)オクスフォードの大学出版局は、スカルによるこの書物の外に、Madness という同じタイトルを持つ、本の性格としてとてもよく似たタイプの本を出している。岩波か…

横溝正史『迷路荘の惨劇』と沼正三『家畜人ヤプー』

今日は無駄話。ある個人の「文体」の問題は、文学を研究している人たちはよくご承知だと思うし、もっと深く・的確に説明すると思うけれども、歴史学者もときどき資料の著者の問題を中心にして文体とはなんだろうと考える。文学研究者に較べて著者の同定は上…

第六回アジア医学史学会

第六回アジア医学史学会プログラム 12月13-15日にわたって、慶應大学・日吉キャンパス来往舎にて、第6回のアジア医学史学会が開催されます。日本を含めたアジア、ヨーロッパ、アメリカ、オセアニアから、合計で120人ほどの研究者による研究発表が行われます…

金川英雄・堀みゆき『精神病院の社会史』

金川英雄・堀みゆき『精神病院の社会史』(東京:青弓社、2009)金川英雄は、今年の精神医学史観連のベストセラーになった呉秀三『私宅監置』の現代語訳を出した精神科医・歴史研究者である。彼が、精神科の看護士で歴史研究者の堀みゆきと組んで、東京周辺…

イギリス王室と児童精神医学

Jane Ridley, Bertie: A Life of Edward VII (London: Chatto, 2012)についてのLRBの書評よりメモ後にエドワード VII 世となるエドワードが生まれた時から、母親のヴィクトリアと父親のアルバートは、その性格と能力に不安を持っていた。2歳の時にはフレノロ…

チャールズ・シンガー『解剖・生理学小史』

チャールズ・シンガー『解剖・生理学小史』西村顕治・川名悦郎訳(東京:白揚社、1983)原著はイギリスの医学史の開拓者の一人であったシンガーが1923-24年に行った講演をもとにして1927年に出版した書物である。1958年にほぼ同じものが再版されている。日…

近代中国の人種理論

Dikoetter, Frank, The Discourse of Race in Modern China (London: Hurst & Company, 1992)中国関連の歴史学者の仕事に文献学の長い伝統がいまでも生きていると感じることがある。論文や書物が、ある構成を持って組み立てられた議論を目指しているというよ…

フランスの優生学的結婚相談

Schneider, William H., Quality and Quantity: The Quest for Biological Regeneration in Twentieth-Century France (Cambridge: Cambridge University Press, 1990)フランスの優生学の歴史についてのスタンダードな書物をチェックする。特に結婚前の健康…

夢野久作「少女地獄」と優生学的血液検査

夢野久作「少女地獄」少女を主人公にした探偵小説の中編を3つ集めた『処女地獄』という作品に、血液検査による処女判定という小道具が用いられているのでチェックした。血液検査で処女を判定しようという発想が、もともとはどこの誰から出てきて夢野久作に至…

優生学とモダニズム

Turda, Marius, Modernism and Eugenics (Basingstoke: Palgrave Macmillan, 2010)優生学の歴史の研究は、それをナチズムを軸にして捉える観方から離脱したあと、それ以外の国における優生学の研究と国際比較へと急速に拡大した。このヒストリオグラフィの中…

『情報歴史学入門』

後藤真・田中正流・師茂樹『情報歴史学入門』(奈良:金壽堂、2009)アーキヴィストたちを相手に話すので、聴衆の感触を得るのにいいかなと思って、花園大学で「情報歴史学」を教える若手の教師3名が書いた教科書をさっと目を通してみた。スタンダード化を意…

松井冬子と九相図

松井冬子が美術史家の山本聡美と一緒に九相図を観るという企画を『芸術新潮』の10月号で読む。死と性と怪異を描いて今を時めく美人日本画家だから、日本の死と腐乱の絵画の古典にどう向き合うかとても興味があったが、正直言って、松井さんの発言は断片的で…