Entries from 2011-12-01 to 1 month
永沢寿美『産婆のおスミちゃん一代記』(東京:草思社、1995)昭和戦前期から戦後期にかけて産婆・助産婦として活躍した女性の自伝である。著者の永沢は、1912年に、東京の北のはずれの六月(ろくがつ)で生まれた。実家は藍染工場であり、多くの従業員を使…
江川昌一・杉原方・細谷純之助「いんどねしやの精神病 Amok に就いて」『大阪医事新誌』 14(1943), no.3, 250-254.大阪帝大の精神科と内科の医学士がインドネシアの精神病について書いた論文を読む。戦前の大阪帝国大学は、長崎や台北とならんで、熱帯医学の…
尾崎紅葉『紅葉全集 第六巻 多情多恨・青葡萄』(東京:岩波書店、1993)必要があって、尾崎紅葉の『青葡萄』を読む。明治のコレラ流行について色々なことを教えてくれる古典的な小説である。この作品は、明治28(1895)年の9月から11月にかけて「読売新聞」…
櫻井図南男「精神薄弱の概念に就いて(産業と精神薄弱の問題)」『福岡医学雑誌』36(1943), no.8, 808-816.のちに九州大学の教授となる櫻井図南男の論文。当時の所属は、九州帝国大学と三井産業医学研究所神経科とある。この段階では、ドイツの学者の議論の…
佐藤政治「看過され易き祈祷性精神病に就て」『日本医学及健康保険』no.3267(1941/42), 154-9.森田正馬の「祈祷性精神病」をうけて、この病気の心理的な機構の解明に取り組む医者たちが現れた。これは、森田が教えた慈恵会医科大学の助手による、いわば森田…
Najita, Tetsuo, “Ambiguous Encounters: Ogata K?an and International Studies in Late Tokugawa Osaka”, in James L MacClain and Wakita Osamu eds., Osaka: the Merchant’s Capital of Early Modern Japan (Ithaca: Cornell University Press, 1999), 2…
昭和16-17年の女学校におけるヒステリーの流行性発生未読山から論文を読む。佐藤亨「『ヒステリー』の流行性発生について」『順天堂医事研究会雑誌』no.589(1943), 19-29.ヒステリーの流行性発生の存在は知られているが、その報告はまれである。筆者である…
Gilman, Sander L., “Constructing Schizophrenia as a Category of Mental Illness”, in Edwin R. Wallace, IV and Jon Gach, History of Psychiatry and Medical Psychology (New York: Springer, 2008), 461-483.画像の分析で一時代を切り開いた著名な医…
Hoenig, J., “The Concept of Schizophrenia Kraepelin-Bleuler-Schneider”, British Journal of Psychiatry 142(1983), 547-556.クレペリン、ブロイラー、シュナイダーという20世紀前半のドイツ語圏精神医学の巨人を三人取り上げ、彼らの統合失調症(早発性…
小笠原喜康『新版 大学生のためのレポート・論文術』(東京:講談社現代新書、2009)必要があって、「論文の書き方」編の新書を読む。人気があった旧版にかなり手を入れて、新版として書き改めたとのこと。学部1・2年生から卒論くらいまで、大学で課されるレ…
静岡市立美術館で、レオナルド展を開催している。モナリザが5種類ほど並んでいる展示は素晴らしい。
天野祐吉『嘘八百―明治大正昭和期変態広告大全』(東京:ちくま書房、2010)天野祐吉というコピーライター・広告文化人がいて、『嘘八百』というタイトルで、近代日本のおかしな広告を集めた文庫本を編集していて、その中に、医学・薬系の新聞や雑誌の広告が…
レオン・ルリッシュ『科学警察』浅田一訳(東京:白水社、1952)必要があって、「科学警察」というタイトルのクセジュ文庫を読む。訳者の浅田一は、1887年生まれ。東大の医学部で法医学を学び、長崎の医学校や東京医科大学の教授となる。国警本部科学捜査研…
台湾での二つの講演を終えた。どちらも初めて書下ろす講演で、授業の準備などと並行しながら、リサーチをして議論を二つ作り出して書き下ろすのはとても大変だったけれども、どちらも手ごたえがある議論を作り出すことができた。これで今年の仕事が終わった…
ディケンズの小説に登場する女性の登場人物は、「人間らしさ」が描かれていないことが多い。アグネス・ウィックフィールド(『デイヴィッド・コッパーフィールド』)のような血が通っていない道徳性や、ミス・ハヴィシャム(『大いなる遺産』)のような暗い…
『ジョー・ブラックをよろしく』をDVDで観る。これは1998年の映画で、公開されたころに私も観たけれども、当時は、ブラッド・ピットはまだ若手に分類できる俳優だった。「ファンタジー・ロマンス」で、メディア王のビル、その娘のスーザン、そして死神の三人…
James, Alice, The Diary of Alice James, ed. By Leon Edel (London: Rupert Hart-Davis, 1965).心理学者・哲学者のウィリアム・ジェイムズと、小説家のヘンリーを兄にもったアリス・ジェイムズは、5人兄弟の末っ子でただひとりの女の子であった。彼女はず…
R.L. スティーヴンソンは、彼の出世作であるTreasure Island (『宝島』)の成立について、印象的なエピソードを語っている。呼吸器の病気で苦しんでいたスティーヴンソンは、エディンバラを避けて、家族で転地療養のために ブリーマール(Braemar)に来てい…
ロンドンでレオナルドの大きな展覧会をしているから、イギリスのメディアはこの展覧会の評論で溢れている。TLSに掲載されたジュリアン・ベルの評論がよかった。アルベルティ『絵画論』において、歴史画(historia)という格調高い絵画においては、その絵の中…
高林陽展「戦争神経症と戦争責任―第一次世界大戦期及び戦間期英国を事例として」『季刊戦争責任研究』70号(2010.冬),53-62.頂いた論文を読む。清水寛らの労作のおかげで、日本における15年戦争期の戦争神経症の研究が始まっており、患者記録を含む膨大な資料…
兵頭静恵「がん闘病記に見る,患者が勇気づけられた他者の言動」先日の「痛みと闘病記」で聞いた、神戸市看護大学で助教をされている兵頭静恵さんの報告が素晴らしかった。81冊のがん患者による闘病記の中から、患者が勇気づけられた他者の言動の部分を抜き…
私のような素人の音楽愛好家にとって一番不思議な作曲家はラヴェルだと思う。『夜のガスパールのような』前衛的な作品を作曲すると同時に、『ボレロ』のような大衆受けする作品も見事にそれっぽく仕上げている。この二つの作品が同じ作曲家によるものだとい…
山本太郎『感染症と文明―共生への道』(東京:岩波新書、2011)「感染症と文明」というのは、私自身の仕事の一つの柱であり、それを主題とした岩波新書が現れたので期待して手に取った。正直言って、全体的な出来にはあまり感心しなかった。同業者だから点が…
三宅鉱一(1876-1954)は、医学の名門に生まれ、父、三宅秀は東京帝国大学の教授であった。呉秀三の後を継いで、1925年に精神病学講座の教授となり、1936年に退官した。25冊以上の書物を出版し、その中でも『精神病学提要』は1932年から39年までに五版を数え…
慶應義塾大学CARLS 哲学・文化 人類学グループ 医学史研究会 合同シンポジウム医療人類学の最前線V統合失調症、人種、公民権運動:精神病をめぐる文化の政治学~Jonathan Metzl先生をお迎えして~日時:2012年1月26日(木)12:30~14:00場所:慶應義塾大学…
いま発売中の Vogue (UK) は、モデルをモンゴルに送り込んだ撮影の特集を組んでおり、これがものすごく面白い。もともと、帝国の中枢のハイ・ファッションは、エキゾティックな趣味を取り込むのに熱心で、Vogue はこの方向の特集を何度か組んでいるけれども…
必要があって、「くる病」が大衆文学の中で使われた例を一つチェックする。文献は、横溝正史『仮面舞踏会』。江戸川乱歩の作品が戦前の医学史にとって重要なインスピレーションになるのと同様に、名探偵の金田一耕介が活躍する一連のシリーズは、戦後の日本…
Sussman, George, “Was the Black Death in India and China?”, Bulletin of the History of Medicine, 85(2011), 319-355. 14世紀なかばのヨーロッパをペストが襲い、人口の三分の一程度が死亡する史上最大規模の疫病となったことはよく知られている。この…
今日は、ちょっと妙なことを書かせてもらいます。ジェンティーレ・ベリーニによる『サン・ロレンツォ橋の聖十字架の奇跡』(1500)という有名な絵画がある。ヴェニスを描いた絵画で、祭礼の途中、運河に取り落とされた聖十字架を、聖ヨハネ同信会の会長が運…
Charon, Rita, Narrative Medicine: Honoring the Stories of Illness (Oxford: Oxford University Press, 2006).Hawkins, Anne Hunsaker, “The Idea of Character”, in Rita Charon and Martha Montello eds., Stories Matter: the Role of Narrative in Me…