紙を切りながら本を読む贅沢をしました

 

 

紙がまだ切られていない状態の本を、ページを切りながら読むという楽しみを、おそらく人生で初めて経験した。何十年か前にイギリスで本を請求したら、そのような状態の本がでてきたことが一度だけあり、その折には司書の方がページを切ってくださった。今回は東大駒場の外国語教室の本で、かなり前に中世の専門家の先生が買われたが、30ページくらいまでしか切られておらず、現在の司書の方も切ってくださらず、それ以降は私が切って読むということになった。きっとどこかを調べたらページの切り方が書いてあるだろうなと思いながら、複雑な規則性がわからないままページを切って、少し読んでみた。テキスト自体の言語は、中世の英語で、私はほぼまったくできないけれども、実佳に少し習って、読んでみた。þe=the のように、þ が th であることを教えてもらうと、少しだけ読めるようになる。 正直言って、こんなに楽しいことはめったになかった(笑)

 

もともと、いくつかの写本から、この本を刊行するのにも時間がかかったとのこと。第二次大戦の折にイギリスの図書館が空襲を受けないように写本をどこかに移動したため、なかなか写真が集まらず、刊行されたのは1949年になったとのこと。中世英語で書かれた写本はオクスフォードに3点、大英博物館に3点、ケンブリッジに1点あり、これくらいあると人気があってよく写本されたというのだろうなと思う。

 

医学史の教科書通りのいくつかの記述もあって、それを確認することも楽しさの一つだった。たとえばガレノスのシステムである、薬草の力を、四つの原理の組み合わせで、四段階で表現できるということが、そのまま出てくると、やはり楽しい。たとえば、最初の方で出てくる。Sowthernwode, as it is red, is hoote in  þe þrid degree and drie in þe same. His sede is more feruent, for it is be-tween þe þridde and þe fourþe gree. という文章や、Garlyk is hote and drye in þe fourþe degre. という文章が出てきるのはとても嬉しかった。いや、嬉しかっただけで、論文で使ったりはしませんけど(笑)