Entries from 2014-10-01 to 1 month

メモーサド・マゾヒズム、犬の流行病

マリー・ボナパルト『クロノス・エロス・タナトス』佐々木孝次訳(東京:せりか書房、1978) フランスにおけるフロイトへの転向者の一人であるボナパルトの著作はいくつか翻訳されている。冒頭の論文「サド・マゾヒズムの生心理学的考察」(7-50) は、フロイ…

増田義郎『アステカとインカ―黄金帝国の滅亡』(2002).

増田義郎『アステカとインカ―黄金帝国の滅亡』(小学館、2002). 増田義郎『古代アステカ王国』は、中公新書から1963年に刊行されている名著である。スペイン人のコンキスタドーレス(征服者)と、アステカ王国の対決を描き、最後にはアステカ側が敗北して崩壊…

精神病院の症例誌のオンライン化

症例誌は医学と医学史の双方にとって最も重要で豊かな史料であり、欧米においては、過去四半世紀にわたって、医学史研究の中枢の資料として用いられています。日本では症例誌を研究と教育に利用できる環境が少ないため、あまり利用されていません。これは、…

「機械は生きている」(ダンス・アーカイヴ)

新国立劇場の「ダンス・アーカイヴ in Japan」という企画で、「機械は生きている」という主題が取り上げられる。 「ダンス・アーカイヴ in Japan」は、2014年に新国立劇場で行われた企画で、日本の現代舞踊の創始者から現代までの約100年について、保存され…

『ドン・ジョヴァンニ』(新国立劇場)

新国立劇場で『ドン・ジョヴァンニ』を観る。新国立劇場がこのプロダクションでドンを上演するのは数回目で、私も過去に少なくとも一回は観たことがある。場所をヴェニスに設定して、ゴンドラが動く水面の影が美しい。歌手たちも外国人の歌手たちは素晴らし…

『サマルカンドの金の桃―唐代の異国文物の研究』

エドワード・H・シェーファー『サマルカンドの金の桃―唐代の異国文物の研究』日本語版監修・伊原弘、日本語版訳・吉田真弓(東京:勉誠出版、2007) 中国の都には陸と海のシルクロードを通ってアジアの様々な文物が運ばれてきた。皇帝、貴族、高位の僧たちの…

保護兵と保育隊―日本陸軍において病的な素質の兵、虚弱兵、精神障害の兵が受けた処置

藤野豊編『大同保育隊報告』(東京:不二出版、2008) 十五年戦争極秘資料集という大部の復刻のシリーズがあり、日本の軍隊、特に陸軍に関連する医学の資料が多く含まれていて、とても役に立つ。清水寛先生が編集された全7冊の『戦争と障害者』は、日本の戦…

シンポジウム「痛みの文化史」

日時 10月25日(土)午後2時 ~ 午後6時 明治大学駿河台校舎リバティータワー12階(1123番教室) 午後2時から午後6時キャンパスへのアクセスhttp://www.meiji.ac.jp/koho/campus_guide/suruga/access.htmlキャンパス内マップhttp://www.meiji.ac.j…

スリメダンの鉄鉱山の労働者の阿片中毒

金子光晴は戦後に活躍した詩人。昭和3年(1928)から7年(1932)にかけて、妻と森三千代と二人でアジアとヨーロッパを放浪する旅に出る。その時に訪れたシンガポール、マレー、ジャワ、スマトラなどの記述をまとめて、昭和15年(1940)に出版したものである。具体…

吸血鬼と医師と貴族について―バイロンの侍医ポリドリによる怪物の創造

The Public Domain Review より、「吸血鬼」という怪物の形成について、面白い記事。 「吸血鬼」(vampire)は、現在の欧米と世界で最も著名な怪物である。この概念が文化のメインストリームに乗ったのは、19世紀の初頭である。具体的には、バイロンの大陸旅行…

記憶の心理学・芸術ワークショップ・医学史のアーカイブズ

ロンドンにあるウェルカム・コレクションは、世界でも最良の医学史アーカイブズの一つですが、現在、アーティストのセアラ・カーンと、ロンドンの大学の心理学の学生の協力を得て、医学史アーカイブズからどのような記憶が作り出されるかというワークショッ…

黒死病と細菌学―大阪大学グローバルヒストリー・セミナー(11月6日)

廣川先生から大阪大学で開催される、歴史と細菌学の文理融合の講演のご案内がありました。興味深い試みですね。 ★第44回のお知らせ下記の様に、新規に発足した大阪大学未来戦略機構・グローバルヒストリー研究 部門、および文学研究科グローバルヒストリー…

精神医学とメディアと文学

マリー・ボナパルト『精神分析と文化論』林峻一郎訳(東京:弘文堂、1971) マリー・ボナパルトはフランスの作家で精神分析家である。フロイトとも親しく、フランスへのフロイト派の導入に貢献した。ナポレオンの弟の曾々孫にあたり(英語で言うとナポレオン…

『水と原生林のはざまで』(1921)

シュヴァイツェル『水と原生林のはざまで』野村實訳(東京:岩波書店、1957) ポストコロニアリズムの登場で、大きくステータスを下げたのがシュヴァイツァーである。シュヴァイツァーは1875年にアルザス=ロレーヌ地方のカイゼルスブルクで牧師の家に生まれ…

イェルサンの伝記

スイス生まれでフランス国籍を取得し、ベトナムで没した医学者であるアレクサンドル・イェルサンの伝記がなくて困っていた。イェルサンの事績で最も重要なのは、1894年に香港でペスト菌を発見したことであるが、このときに北里柴三郎と競争になったため、恐…

「家族の外に住む人々」(戸田貞三)と精神医療

戸田貞三『家族構成』(1937; 東京 : 新泉社, 2001) 日本社会学の古典の一つ。1920年の国勢調査からのサンプリングを主たるデータとして、それ以外の比較的小規模の調査の結果も参考にして、日本国内のさまざまな地域に関して、家族構成を調べた著作である…

医療・文化・社会研究会―『小島の春』について

2014年度 医療・文化・社会研究会 第1回例会Medicine, Culture and Society Seminar Series日時:10月15日(水)17:00~19:00 高林陽展先生(清泉女子大学)から、医療・文化・社会研究会(旧医学史研究会)のご案内です。 場所:慶應義塾大学三…

日本の産婦人科の内診台の特徴

EAST 最新号に面白い論文。日本の産婦人科の内診台は世界でも特徴がある機材である。1980年代から導入されたタイプが重要であり、これだと、患者・産婦は椅子の形状の台に座るだけでよく、あとは椅子状の機材が動かされて検査されるため、患者が羞恥心を感じ…

イプセン『幽霊』と遺伝性梅毒

19世紀末から20世紀初頭にかけて文明国の人々の不安の中核の一つは、退化や変質と訳される degeneration であった。疾病の原因が遺伝して悪化することで、世代を経ると個人の質が低下していきこと、個人の集合である社会や国家も、体力や能力が退化していく…