Entries from 2013-02-01 to 1 month
井村恒郎「敗戦国の妄想狂」『現代心理』1巻7号1947: 27-35.戦前・戦中・戦後と精神病医患者の妄想を診てきた医学者が、戦争をはさんでどのように妄想が変わったのかを論じているエッセイで、ものすごく面白い。神経症のような精神異常なら、戦争のような社…
泉鏡花『天守物語』『天守物語』は大正6年に発表された戯曲であるが、鏡花は自作が上演されるのを観ることができず、初演は昭和26年の花柳章太郎であった。2011年に新国立劇場で公演された時に見損ねたのが口惜しい。映画化は1995年の坂東玉三郎・宮沢りえの…
History of Psychiatry 2013年3月号。論文が6点に古典翻訳と書評が5点。6つの論文は、まず一つめは北ウェールズの精神病院の症例誌をもとにして、1875-1924年と1995-2005年の二つのコホートにおいて、メランコリー/重度うつ病の研究。死亡率はいずれのコホ…
2014年1月に、マニラのアテネオ・デ・マニラ大学で、「第5回・東南アジア医学史学会」が開催されます。報告を希望する方は、以下の要領で、モントリールのローレンス・モネ先生まで。CALL FOR PAPERS5th International Conference on The History of Medicin…
横溝正史『獄門島』は、昭和22-23年に雑誌『宝島』に連載された探偵小説で、瀬戸内海の孤島で起きた連続殺人事件を金田一耕介が解決する人気作品である。瀬戸内海の孤島は、日本の優生学と精神医学にとって縁が深い主題である。1940年の国民優生法が制定さ…
大門正克『日本の歴史 15 1930年代から1955年―戦争と戦後を考える』(東京:小学館、2009)16冊構成の「日本の歴史」の新しい通史の、戦前から戦後までを論じた書物を読む。よくお名前を目にする大門先生の書下ろしで、人々の「生存」の歴史ということで、医…
かなり前のことになるけれども、Bunkamura ザ・ミュージアムで「白隠展」を観たときの記事を。今日は2月23日で「富士山の日」でもあることですし。 白隠は1685年に生まれ1768年に没した禅僧で、1000点以上の数多くの画と書の作品を残した。今回はそのうち重…
この数年は20世紀の精神医療の歴史を研究しているから、そのための体制を自分の中で徐々に作っているが、その一つが、簡単なことだけれども、「ヤスパースとクレペリンの教科書を座右に引きつけてよく目を通す」ことである。どちらも、みすず書房から美しい…
研究会「宗教と精神療法:その歴史的パースペクティブ」Seminar "Religion and Psychotherapies: Its Historical Perspective"場所:求道会館(〒113-0033 東京都文京区本郷6丁目20-5)Kyudo Kaikan (20-5, Hongo 6 chome, Bunkyo-ku)3月6日時間:第1部…
エラリー・クイーン『Yの悲劇』本格推理の傑作としてタイトルを知ったのが中学生の頃だから、35年ほどタイトルだけ知っていて読まなかった本である。三分の一世紀にわたる無知を激しく恥じる内容だった。推理小説だからネタバレを警戒しますが、以下は内容に…
ハックスリー『素晴らしき新世界』の末尾に、私をとても不安にさせて、胸から腹のあたりにまるで生き物がいるかのような不快感を覚える部分がある。痛みと鞭打ちの個人性と集団性について、嘔吐感を催させる、まさしくポルノグラフィックな部分だと思う。ハ…
クレッチュマー『ヒステリーの心理』手元にあるのは、クレッチマーが1948年に Hysterie, Reflex und Instinkt というタイトルで出版したものを、東大の吉益脩夫が1953年に『ヒステリーの心理』として訳したもの。本当に観なければならないのは、同じ吉益が19…
小酒井不木「科学的研究と探偵小説」『新青年』3巻3号(1922)探偵小説と医学研究の間の深い関連は、英語圏では医学の文化史の確立された主題のひとつとなって、多くの研究書がすでに世に問われている(読まなくては!)日本語でも、英文学者が作品論ベース…
以下の研究会が開催されますのでお知らせいたします。「精神医学の科学哲学―精神疾患概念の再検討―」第2回研究会2013年2月23日(土)13時30分開始、終了時刻未定(17時頃終了見込み)東京大学駒場Ⅰキャンパス18号館1階ホール発表者信原幸弘(東京大学)「妄…
加藤正明『ノイローゼ』重要な一文を見つけたのでメモ。もともと昭和30年に「創元医学新書」の一冊として出版された書物だが、これは昭和56年の大きな改訂の時に書かれた言葉で、それまでの版には出てこない。「この本の初版が出た昭和30年からすでに26年を…
Staub, Michael, Madness Is Civilization: When the Diagnosis was Social, 1948-1980 (Chicago: University of Chicago Press, 2011).アメリカでは戦時神経症の研究がどのように戦後の精神医学に発展的に連結させられたかを論じた書物の章をチェックする。…
欧米の戦争神経症の議論と、日本のそれを大きく隔てる違いの一つは、それが公衆による議論の対象であったか否かという違いである。第一次世界大戦期のヨーロッパの交戦国において、1914年の7月に戦争がはじまって数か月のうちに、戦争神経症は公衆が注目する…
ドイツの第一次世界大戦期の戦争神経症研究についてメモ(Ben Shepard) ドイツにおいては、大学の精神科の教授レベルの優れた医師たちを総動員した戦争神経症の研究と治療のプログラムがすぐに始まった。その中で、1890年代に外傷性神経症について論争され…
London Review of Books という隔週の書評誌があって、イギリスの大学の学科のコモンルームにはTLSやTHESなどと並んで一緒に必ず置いてある。書評紙といっても、書評の形を取った評論と云うのが正確で、学術誌の書評とはだいぶ違う。まず長さがだいぶ長く、…
http://albert-movie.com/映画『アルバート氏の人生』を観る。19世紀のダブリンを舞台にして、女性でありながら15歳の時に男性に集団レイプされて以来、男性としてホテルのウェイターを続けてきたアルバート・ノッブスが中年になって人生の転機を迎え、さま…
平塚俊亮・野村章恒「神奈川県某地に於ける全成員調査」『民族衛生』9巻5号、1941:436-453.神奈川県の某村というのは、鎌倉郡の村岡村である。人口は1700人ほど。この村の精神病の全数調査に基づく論文である。精神病調査についてもっと早く読んでおくべき資…
坂口安吾「白痴」坂口安吾「白痴」を読んでおく。戦争末期の東京・蒲田のあたりに住む新聞記者の生活を通じて、空襲で最終的に破壊された生活の空虚さを描いた作品である。そこに描かれている精神障害者の生活ぶりが大変面白く、戦前の東京における精神障害…
Hammond, Mitchell Lewis, “Medical Examination and Poor Relief in Early Modern Germany”, Soc Hist Med (2011) 24(2): 244-259.ドイツの小都市ネルドリンゲンの資料を用いて、医師が比較的貧しいものを診断・治療するときのありさまを分析した論文。短い…
「科学史講演会」は、2012年から東大駒場の科学史・科学哲学科で開催されている、国際的に優れた研究者による講演のシリーズです。東大の橋本毅彦先生、ケンブリッジのクスカワ・サチコ先生などがすでに壇上に立っています。 2月8日には、オランダのヒロ・ヒ…
Singh, Illina and Nikolas Rose, “Biomarkers in Psychiatry”, Nature, vol.460, 9 July 2009.現在来日中のニコラス・ローズと同僚が執筆した、精神医学におけるバイオマーカーの利用について。ローズは現代の生命倫理と医療の社会科学の大家の一人であるし…
Kennaway, James, “Musical Hypnosis: Sound and Selfhood from Mesmerism to Brainwashing”, Soc Hist Med (2012) 25(2): 271-289.音楽と催眠というと、音楽療法に関心がある心理療法か何かの専門家がテクニカルな問題について素朴な論文を書くことを予想し…
Slater, John and Mar?a Luz L?pez Terrada, “Scenes of Mediation: Staging Medicine in the Spanish Interludes”, Soc Hist Med (2011) 24(2): 226-243.近世スペインにおいて、短い演劇作品の「インタールード」における医者たちの分析。「インタールード…