Entries from 2005-01-01 to 1 year

一年間ご愛読ありがとうございました

4月から今まで私のブログをご愛読くださった皆さま、どうもありがとうございました。ずっと更新できない日が何日も、何週間も続いたこともありました。それでも、毎日更新されていないかチェックしてくださる方がいて、カウンターの数字が増えているのは、励…

コレラの常在

1938-39年の中国揚子江中流域のコレラ流行の調査を読む。 久しぶりに研究書ではなく、一次資料である。後にWHOからコレラの疫学史の大著を出すことになるポリッツァーが若き日に中国で行ったコレラの調査の論文である。日本のコレラについては、解かなけれ…

科学の境界領域

20世紀の実験室の科学とフィールドの科学の接点に作られた<境界領域>についての本に目を通す。 今の大きな仕事である、日本の疾病と医療の歴史を研究するために、新しい方法論を勉強したり、場合によっては新しい視点を作りだしたりしなければならない状況…

アフリカの眠り病

ベルギー領コンゴのアフリカ・トリパノソーマ病対策の歴史を論じた書物を読む。 眠り病とツェツェ蝿。何かは忘れたかが、子供の頃に読んだジャングル冒険物語に出てきた二つの言葉である。妖しい恐怖とスリルがある言葉だった。熱帯の魔手から逃れながら、身…

アメリカの疾病史

アメリカの病気の歴史の通史を読む。 アメリカの精神医療、特に精神病院の歴史研究をリードしてきた Gerald Grob が第一線を引いて、アメリカの病気の歴史の通史を書いた。意外なことに、このトピックでははじめてのまとまった本である。精神医療の歴史から…

伝染病対策と環境主義

啓蒙と医学における環境主義についての古典的な研究書を読む。今年の冬学期に大学院の授業で明治期の赤痢についての医学書や流行記事などを読んでいるうちに、「感染説 vs 環境説」ではなくて、どちらも(特に後者)複数あることを実感した。在来医学の影響…

朝鮮における植民地衛生

朝鮮における植民地衛生の文化史についての論文を読む。 昨日に続いて、新着雑誌からである。統監府・植民地時代の朝鮮(というのだろうか)の衛生の文化史の論文である。 日露戦争以降に韓国に進出した日本人たちは、当地の不潔な習慣に眉をしかめた記述を…

モダニスト建築の健康な空間

結核患者療養用のサナトリウムが、モダニストの建築に影響を与えたことを論じた論文を読む。 一昨日、気鋭の科学史研究者による、衛生昆虫学と「伝播空間」のコントロールの歴史に関する面白い話を聞いた。「感染と空間の詩学」のワークショップの一環である…

あと少しお待ちください

更新が大変滞っています。もう、このブログは放棄されたのかとご心配の読者もいらっしゃるかもしれません。 あと数日で、長い長い修羅場を抜けて、また更新を始めますので、あと少しだけお待ちください。

自然と社会

先週の研究会の話の続きである。ハーヴェイの本と並んで最も大きなインスピレーションになったのは、Joshua Lederberg の論文であった。1970年代までの感染症の制圧を、「ヒトの生物学的な脆弱性を、人間が持つ社会と文化によって克服してきた過程」と捉え、…

ポストモダン地理学

研究会の準備のために借りてきた本の柱の中にあった David Harvey の本を何冊か読んだ。翻訳で『ポストモダニティの条件』、特に空間の時間の経験を扱った第三節、それから Justice, Nature and the Geography of Difference (1996) を読む。 今回の準備をし…

ミシェル・フーコーのヘテロトピア

昨日水曜日は、私が事務局をしている研究会で、私が話すことになっていた。秘書がコピーしてくれた論文が山をなし、借り出してくれた本が机の上に柱のようになっていた。かなりの体積をもったそれらの文献をとにかく読み散らかしてアイデアをかき集め、話の…

下水道と衛生の比較史

アメリカの学会での発表を綱渡りで終えて火曜日に帰国。これを乗り切れば状況は少しは良くなるかと思っていたが、予定を確認したら、むしろこの1-2週間の修羅場は深まっている。そんな中、色々差し迫った仕事があるが、半ば自暴自棄で世紀転換期のシカゴとマ…

更新が滞っています

ここしばらく、更新が滞っています。 せっかく訪問してくださる方、どうもごめんなさい。 この数日、修羅場が続いていますが、明日の夜には峠を越えると思います。

フランスの植民地精神医療

北アフリカのフランス植民地における精神医療についての論文を読む。 植民地精神医療ほど、ヨーロッパの「文明化の使命」にあてはまりが良い分野はないだろう。植民地では(ヨーロッパでもそうだが)、精神病患者は大概鎖につながれていたり、小屋や牢屋の類…

ハエと細菌学

細菌学によるハエのスティグマ化(?)についての論文を読む。 先週と先々週の授業で細菌学革命の話をした。パストゥール、コッホ、血清療法などの一通りを教えたあと、やはり革命以前の衛生学と、細菌学の根本的な対立の話をした。「革命」の断絶よりも連続…

科学の地理学

科学の地理学を論じた書物を読む。 科学の大部分は、大声では言わないにせよ、普遍的な学問だと自認している。科学的な法則は世界中のどこにおいても妥当するはずである。だとすれば、科学が営まれる場所というのは、科学の本質にとって、せいぜい二次的な意…

植民地医学

再びマーク・ハリソンである。今回は Public Health in British India である。 授業の準備と、日本の疾病史の準備の都合で、19-20世紀の植民地医療の本も読み出している。近代日本疾病史・医療史という主題は、川上武らの優れた研究がある。『日本科学技術…

疾病史の教科書

マーク・ハリソンの近現代疾病史の新しい教科書を読む。 授業が始まって、その準備をしなければならないので、色々な本を読み漁るようになった。「研究モード」に入っているときは、その負担が大きいのと、あまりブログに書くような多くの人が興味を持ちそう…

中世医学は迷信的か?

十字軍以前のヨーロッパでは、病気は犯した罪に対する罰だと思われていたというテーゼを再検討した論文を読む。 かつての医学史の教科書的な記述では、古典古代の科学的な医学から、中世の宗教的な医学への転換があったということになっている。ヒポクラテス…

ロシアの細菌学

ロシアの初期細菌学についての論文を読む。 最近、いやにロシアのことをブログに書いている気がする。まるでロシアの医療の歴史の研究者のようだけど、そういうわけではない。日本の医療とか、疾病の状況を研究する時に、開国の昔から常に、世界の一流国と較…

パンデミック・インフルエンザ

アルフレッド・クロスビーの『史上最悪のインフルエンザ』を読む。 研究者の多くは、第一次世界大戦の末期にインフルエンザが大流行したことを耳にしたことがあるだろう。しかし、その実態についてなにがしかの知識を持っているものは多くないだろう。このこ…

ただいま

イギリスの出張から帰って来ました。 お休みの間に訪問してくださった皆様、ごめんなさい。 一言あいさつするべきだったのでしょうね。 また、レヴューを再開します。

精神医療の人類学

今回の話は、精神医療史の国際比較のような方向の学会でするので、異文化精神医学の本を読み漁っている。その分野での大御所であるハーヴァードのクラインマンの書物を読んだ。 私のような、いわゆるコテコテの医療の社会史の仕事をしていて、歴史の資料に埋…

クロルプロマジン革命

9月の頭に、日本の精神医療における薬物の利用について少し話すことになっていて、その準備にかかっている。知り合いが多い気楽な学会だし、しばらく前から暖めているテーマなので(実際のリサーチは何もしていないのだけれども・・・)、夏風邪を引いて調子…

シーボルトとネットワーク

マシューズ関係の本の書評も終わって、医学人名辞典の編集と項目執筆の仕上げに入っている。シーボルトについて書くために、呉秀三の一連のシーボルト研究を読む。近年の人文社会系の医学史の研究者には、狭隘な民族主義者が意外に多くて、「問題意識を共有…

想像力と妄想の歴史

しばらく前からブログの主題になっている書評を大体書いた。小説の書評をするのは難しかったけど、もう一つの本との対比という感じで、うまくまとめられたと思う。あまり突っ込んだことは言えなかったが、広いパースペクティヴがある書評が書けてちょっと嬉…

19世紀のマインド・コントロール・マシン

18世紀の末のイギリスの精神病患者の人生と彼の妄想を詳細に分析した書物を読む。 1815年に没したジェイムズ・ティリー・マシューズ は、「世界最初の精神分裂病の患者」ではないが、人生と病像の細部を知ることができるごく初期の分裂病患者の一人である。…

精神病の「エコロジカル・ニッチ」

夏の休暇から11日に帰ってきました。 新たな気分で、仕事もブログも再開です。 19世紀の末から20世紀初頭のフランスを中心に「流行」した精神病、「遁走」(fugue) についての書物を読む。 精神医学の歴史についての本を二冊まとめて書評を書くことになった。…

お休み

8月11日までお休みを頂きます。論文を書いているときには忙しくなり、落ち着いて本を読んでレヴューしている暇がなくなる。 それを解決するためには、論文を書きながら考えていることをブログに載せてしまえばいい、と考えてついてから、わりと好調に更新し…