Entries from 2009-11-01 to 1 month

「卒都婆小町」

三島の戯曲を読んだあと、数点、能の原作を読んでみる。老女の物狂いが出てくる「卒都婆小町」について書くのは、憶えておくと研究のヒントになるかもしれないという浅ましい考えもあるが、最近、老いを取り上げた話が心に響くということもある。岩波の古典…

三島由紀夫『近代能楽集』

今日は無駄話。恥ずかしながら、私は能をきちんと観たことがない日本人で、「ニホンに来たからにはノウを観たい」と外国人に言われて困ることが時々ある。北米の学者なら、銀座四丁目から歌舞伎座に連れて行って、英語の説明があるヘッドセットを押し付けて…

泥沼にはまった現代医学

新着雑誌から、現代医学が泥沼にはまったと主張し、その原因を考察する論文を読む。文献は、Mittra, Indraneel, “Why Is Modern Medicine Stuck in a Rut”, Perspectives in Biology and Medicine, 52(2009), 500-517. 現代医学はさまざまな批判を受けていて…

障害の経済学

必要があって、障害の経済学の論文を読む。文献は、松井彰彦「『ふつう』の人の国の福祉制度とスティグマ」『経済セミナー』2009年8-9月号22-23.日本の社会福祉のレジームの位置づけについて、とても面白いことをいっていた。「ふつうの人」を年金においた…

痛み治療としてのロボトミー

新着雑誌から。文献は、Raz, Michael, "The Painless Brain: Lobotomy, Psychiatry, and the Treatment of Chronic Pain and Terminal Illness", Perspectives in Biology and Medicine 59(2009), 555-565.すみません、今日はちょっとした事故があって、大急…

お願い:この病気を診断してください!

実は、このブログを訪問するお医者さま、医療関係者の方に、お願いがあります。この病気を診断していただけないでしょうか?今から260年ほど前のイタリアの患者です。文献は、Morgagni, Gianbattista, The Clinical Consultations of Gianbattista Morgagni,…

病気とは何か

必要があって、川喜田愛郎『病気とは何か-医学序説』(東京:筑摩書房、1970)を読む。著者はしばらく前に物故した細菌学者で、日本語で書かれた西洋医学の歴史書としては最も優れた書物である『近代医学の史的基盤』という上下二巻本の大著を岩波書店から…

自然と正常

必要があって、19世紀のアメリカの医学の変化を論じた名著の、実験医学の影響の部分を読み返した。文献は、Warner, John Harley, The Therapeutic Perspective: Medical Practice, Knowledge, and Identity in America (Cambridge, Mass.: Harvard Universit…

細菌学と臨床医

必要があって、アメリカの医学における細菌学と臨床医の関係を論じた論文を読む。これも、昨日取り上げたジェイソンの論文と同じ書物に収録された古典的な論文。文献は、Maulitz, Russell, “’Physician versus Bacteriologist’: the Ideology of Science in …

実験科学と臨床医

必要があって、19世紀から20世紀における生理学者・基礎医学者と臨床医の関係を論じた古典的な論文を読む。文献は、Geison, Gerald L., “Divided We Stand: Physiologists and Clinicians in the American Context”, in Morris J. Vogel and Charles E. Rose…

飛騨の痘瘡

必要があって、須田圭三『飛騨の痘瘡史』を読む。教育出版文化協会という出版社から、平成4年に出版されている。著者は、日本近世の疾病の歴史、特に歴史疫学の研究において傑出した業績である『飛騨O寺院過去帳の研究』で著名である。この書物は、『O寺院…

文通診療

必要があって、18世紀イギリスの文通診療の研究書を読む。文献は、Wild, Wayne, Medicine-by-Post: the Changing Voice of Illness in Eighteenth-Century British Consultation Letters and Literature (Amsterdam: Rodopi, 2006).ロイ・ポーターが切り開い…

三島由紀夫『金閣寺』

必要があるという言い訳をでっちあげて、三島由紀夫『金閣寺』を読む。この傑作を読むのは久しぶり。主人公と友人が南禅寺に遊んだときに、着物の女が胸をはだけて茶碗に乳を注ぎ、それを恋人の士官に与えるのを目撃するシーンがある。一度読んだら一生忘れ…

人種地理学と気候

必要があって、人種地理学の資料を読む。文献は、グリフィス・テーラー『人種地理学 環境と人種』徳重英助訳(東京:古今書院、1931) これは、シカゴ大学教授、テーラーの Environment and Race (1927) を訳したもの。原始人は徹頭徹尾環境によって支配され…

正倉院展

奈良の国立博物館の「正倉院展」に行く。戦後にはじまった正倉院の宝物(当時は「御物」といったそうだ)の公開ももう第61回になったそうだ。私は、井上靖の『天平の甍』が好きで、何も知らないけれども天平時代に憧れている単細胞だから、正倉院展にはずっ…

熱帯地方の服装

新着雑誌から、熱帯地方向けの服装に関する論文を読む。文献は、Johnson, Ryan, “European Clothes and ‘Tropical’ Skin: Clothing Material and British Ideas of Health and Hygiene in Tropical Climates”, Bulletin for the History of Medicine, 83(200…

シャムダサニ先生の講演会の中止

11月11日の夜分にアップした記事で、シャムダサニ先生の講演の予定をご案内いたしましたが、シャムダサニ先生の腰痛の悪化のため、今回の来日と講演会を中止いたします。 お騒がせいたしまして、申し訳ありません。

ユング「赤の書」講演会中止のお知らせ

先日、この記事で、ソヌ・シャムダサニ先生の講演のご案内をいたしましたが、シャムダサニ先生の腰痛の悪化のため、今回の来日が取りやめられるという不測の事態が起きました。 楽しみにされていた方も多く、非常に残念ですが、今回の講演は中止になります。…

バラバラ死体殺人事件

今日は文献紹介というよりも無駄話。ここ数日、ただの凶悪事件というのではなく、人間の身体に加えられる暴力のおぞましさで胸を悪くさせるような事件が相次いで報道されている。しばらく前から、睡眠導入剤とかいった医学用語をさんざん聞かされていたとこ…

ピネルとイデオロジー

もう一点、新着の『精神医学史研究』から。今回の号は読み応えがあるものが多くて、最近、明らかに水準は上がっている。文献は、上尾真道「近代精神医学の始まりにおける<人間>―Pinel とイデオロジー」『精神医学史研究』13(2009), 123-131.<ピネルとイデ…

鴎外とフロイト

同じく新着雑誌から、森鴎外とフロイトについての論文を読む。文献は、新田篤「森鴎外によるフロイトの神経症論への言及」『精神医学史研究』13(2009), 115-124.これまでは、日本におけるフロイトへの最初の言及だと思われていたものよりも4ヶ月早く、森鴎外…

江戸の乱心と減刑・赦免

新着雑誌から、江戸時代の精神障害者が犯罪をおかしたときの対処についての論文を読む。文献は、岩崎大輔・新福尚隆「江戸前期における精神障害者の法的処置に関する研究」『精神医学史研究』13(2009), 96-106. 1657年から1699年までの江戸の刑事事件の判例…

山岸涼子『天人唐草』

必要はなかったけれども、山岸涼子の漫画を読む。文春文庫から出ている『天人唐草』山岸涼子さんは、つい最近名前を知ったのだけれども、聖徳太子をモデルにした『日出処天子』で有名な漫画家。『日出処天子』をアマゾンで買ったときに、「この商品をお買い…

「医学と芸術」とレオナルド

ウェルカムのライブラリーにオンラインで行って思い出したので、今日はもうじき開かれる展覧会の宣伝を。六本木の森美術館で、11月の28日(土)から2010年の2月28日(日)まで、「医学と芸術」展が開かれます。http://www.mori.art.museum/contents/medicine…

バロック期イタリアのリストカッター

必要があって、書簡診療の書物をもう一冊眺めていたら、面白い症例があったので記事にする。文献は、Torti, Francesco, The Clinical Consultations of Francesco Torti, translated and with an introduction by Saul Jarcho (Malabar, Florida: Krieger Pu…

書簡診療

必要があって、18世紀のパドヴァ大学の教授で偉大な病理解剖学者のジャンバティスタ・モルガーニの「書簡診療」の記録を読む。文献は、Morgagni, Gianbattista, The Clinical Consultations of Gianbattista Morgagni, the edition of Enrico Benassi (1935)…

特定病因説の哲学的形成

必要があって、特定病因説の形成についての論文を読む。文献は、Carter, K. Codell, “The Development of Pasteur’s Concept of Disease Causation and the Emergence of Specific Causes in Nineteenth-Century Medicine”, Bull.Hist.Med., 65(1991), 528-5…

神経学の闘病記

必要があって、20世紀ソ連の神経学者が編集した、頭部に傷害を受けた患者の長大な手記を読む。文献は、Luria, A.R., The Man with a Shattered World: the History of a Brain Wound, translated from the Russian by Lynn Solotaroff, with a foreword by O…