Entries from 2008-10-01 to 1 month

青い目が見た明治の酩酊者(笑)

必要があって、明治日本を論じた書物を読む。文献は、渡辺京二『日本近代素描 I 逝きし世の面影』(福岡:葦書房、1998) 幕末明治に日本に滞在した外国人たちが記した記録をたくさん読んで、そこから徳川日本の文明の特徴なるものを論じたもの。読んだ資料…

藤原定家のマラリア

必要があって、鎌倉時代のマラリアに関する論文を読む。文献は、中村昭「『名月記』における瘧疾の検討」上・下『日本医史学雑誌』34(1988), 172-184; 431-444. 高名な歌人で新古今和歌集の選者であった藤原定家の日記『名月記』から「瘧」(マラリア)につ…

飢餓の歴史

必要があって、19世紀から20世紀のイギリスとその帝国を中心とした飢餓の歴史を読む。文献は、James Vernon, Hunger: a Modern History (Cambridge, Mass.: Harvard University Press, 2007).1850年には、「飢えている」状態は、飢えている本人の責任であっ…

『クワイエット・ルームにようこそ』

必要があって、松尾スズキ監督の映画『クワイエット・ルームにようこそ』を観る。ついでに、同じ松尾による原作の小説も読む。文春文庫版で100ページちょっとの薄いもので、表紙がおしゃれだった。自殺未遂とも事故ともつかない向精神薬とアルコールのオーバ…

津軽青森の古典主義時代

未読山の中から、青森県の精神医学を論じたエッセイを読む。文献は、津川武一・布施清一「日本精神医学風土記 青森県」『臨床精神医学』16(1987), 97-108.著者の一人は戦争中に精神科の医者になり、戦後には、私宅監置や座敷牢などを直接見聞きしただけでな…

戦国時代の貴族の日記

必要があって、戦国時代の貴族の日記の解説書を拾い読みにする。文献は、今谷明『戦国時代の貴族』(東京:講談社学術文庫、2002)公卿の山科言継(やましな・ことつぐ)は1507年に生まれ、1579年に没している。資料的価値が高い日記を残したことで知られて…

松沢のインシュリン療法と食糧事情

必要があって、戦前・戦中・戦後の精神病院の実態を回顧した座談会の記録を読む。文献は、「座談会 戦中・戦後の精神病院の歩み」第一部・第二部『精神医学』14(1972), 688-703; 784-795. 東京の松沢病院や私立の武蔵野病院、井の頭病院、横浜の県立精神病院…

明治の病院と看護婦の年齢上限

未読山の中から、幕末から明治の病院をまとめて略述した小文を読む。文献は、大鳥蘭三郎「近世日本病院略史」『中外医事新報』No.1221(1935), 278-282; No.1222(1935), 321-327; No.1223(1935), 365-368; No.1224(1935), 404-407; No.1226(1935), 471-482.幕…

三宅鉱一『精神病学提要』

必要があって、三宅鉱一の精神病学の教科書『精神病学提要』に目を通す。昭和6年に初版が出て書物だが、昭和8年の第二版と昭和18年の第七版を並べて眺めてみた。10年間で400ページから470ページへと2割弱の増加、症候論と精神病各論の二部構成という基本構成…

『ボディ・サイレント』

必要があって、進行性の障害を持つにいたった人類学者の自己研究を通した障害研究を読む。文献は、ロバート・マーフィー『ボディ・サイレント』辻信一訳(東京:平凡社ライブラリー、2006)。40代半ばのコロンビア大学の人類学の教授が、脊髄腫瘍によって、…

ADHDの歴史

新着雑誌(というか、目を通すのが遅れていたかつての新着雑誌)から、ADHDの歴史を論じた論文を読む。必ずしも本格的なリサーチと分析をしている論文とはいえないが、要点を論じた読みやすい論文で、私は多くを教えられた。文献は、Mayers, Rick and Adam R…

ナチス時代の精神障害者「安楽死」

新着雑誌から、ナチス時代の精神障害者「安楽死」に関する短い論文を読む。文献は、Benedict, Susan and Tessa Chelouche, “Meseritz-Obrawalde: a “Wild Euthanasia” Hospital of Nazi-Germany”, History of Psychiatry, 19(2008), 68-76.1939年にヒトラー…

神経衰弱とヒステリー

新着雑誌から、20世紀初頭イギリスの神経衰弱を論じた論文を読む。文献は、Loughran, Tracey, “Hysteria and Neurasthenia in Pre-1914 British Medical Discourse and in Histories of Shell-shock”, History of Psychiatry, 19(2008), 25-46.神経衰弱やヒ…

「事故傾向性」という病気

新着雑誌から、「流行らなかった精神病概念」を調べた論文を読む。文献は、Burnham, John C., “The Syndrome of Accident Proneness (Unfallneigung): Why Psychiatrists Did Not Adopt and Medicalize It”, History of Psychiatry, 19(2008), 251-274.「20…

『テレーズ・ラカン』

必要があって、エミール・ゾラ『テレーズ・ラカン』を読む。小林正訳の岩波文庫版で上下二巻のもの。アルジェリアのオランで、フランス人の軍人と現地の女との混血として生まれたテレーズは、赤ん坊のときに叔母のラカン夫人に引き取られる。ラカン夫人がさ…

エジプトのペストと環境史

新着雑誌から、エジプトの18世紀末のペスト流行を、環境史の視点で見た論文を読む。文献は、Alan Mikhail, “The Nature of Plague in Late Eighteenth-Century Egypt”, Bulletin of the History of Medicine, 82(2008), 249-275. これは博士論文のリサーチだ…

上海事変の「陣中日誌」

未読山の中から、陸軍軍医の「陣中日誌」を読む。文献は、『15年戦争極秘資料集・補巻5 第一次上海事変における第九師団軍医部「陣中日誌」』野田勝久編集・解説(東京:不二出版、1996) 1932年の2月に金沢を出発して、上海とその周辺で軍事行動を行った師…

『トゥーランドット』

初台の新国立劇場でプッチーニの『トゥーランドット』を観る。オペラというジャンルの最大の弱点は、そのばかげた筋立てだろう。その中でも、プッチーニの『トゥーランドット』の筋立ては、群を抜いてばかげていて、正直言って敵意すら抱かせるようなストー…

ロボトミーと精神分析

新着雑誌から、ロボトミーと精神分析の関係についての論文を読む。文献は、Raz, Mical, “Between the Ego and the Icepick: Psychosurgery, Psychoanalysis and Psychiatric Discourse”, Bulletin of the History of Medicine, 82(2008), 387-420.現在の(日…

精神医療と直腸栄養補給

未読山の中に古い新着雑誌を見つけて、19世紀末のドイツにおける、直腸栄養補給についての論文を読む。文献は、Sammet, Kai, “Avoiding Violence by Technologies? Rectal Feeding in German Psychiatry”, History of Psychiatry, 17(2006), 259-278.19世紀…

『グロテスクの系譜』

未読山の中から、フランスの美術史の碩学によるグロテスク美術論を読む。文献は、アンドレ・シャステル『グロテスクの系譜』永澤峻訳(東京:ちくま学芸文庫、2004)「グロテスク」という言葉は多義的である。日常の日本語では、かなり否定的で無気味で醜い…

『ヒメの民俗学』

必要があって-というか、藁にもすがる思いで-民俗学者の本を読んでみる。文献は、宮田登『ヒメの民俗学』(東京:ちくま学芸文庫、2000) 同じ著者の『江戸のはやり神』に、江戸の流行病の事例が紹介されていて、その事例にとても助けられた。『ヒメの民俗…

『列仙伝・神仙伝』

出張の移動中に、中国の仙人伝を読む。文献は劉向・葛洪『列仙伝・神仙伝』沢田瑞穂訳(東京:平凡社ライブラリー、1993)劉向と葛洪は、それぞれ紀元前一世紀と紀元三世紀に生きた著者で、彼らに帰される二つの仙人伝を集めたのが本書である。どちらも、70…

寺山修二の名言集

未読山の中から、寺山修二『ポケットに名言を』をトランクにつめて出張に持ってきた。古今東西の書物や映画・流行歌から寺山が選んだ名言と、自選の名言からなる薄い本。寺山の時代特有の、嫌味がない芝居気たっぷりのものが目立つ。三島やワイルド、ラ・ロ…

『匂い立つ官能の都』

出張の移動中に、だいぶ前にどなたかのブログで紹介されていた小説を読む。文献は、ラディカ・ジャ『匂い立つ官能の都』(東京:扶桑社セレクト、2005)インドの女性作家の国際的なヒット作。アフリカのナイロビで生まれたインド系の若い女性、シリーラ・パ…

移民とコレラ

必要があって、フランスの移民とコレラについての記述をもう一度読む。文献は、Aisenberg, Andrew R., Contagion: Disease, Government, and the “Social Question” in Nineteenth-Century France (Stanford: Stanford University Press, 1999)の第四章 “The…

ロンドンのコレラ

必要があって、ロンドンのコレラ対策の歴史の古典をもう一度読む。文献は、Luckin, Bill, Pollution and Control: a Social History of the Thames in the Nineteenth Century (Bristol: Adam Hilger, 1986).1853-4年にロンドンは、1832年、1849年に次ぐ、…

江戸時代の見世物と生き胆

未読山の中から江戸時代ものをぼんやり読んでいたら、面白い記述が二つあったので書き留めておく。文献は、鈴木 『江戸巷談 藤岡屋ばなし 続集』(東京:ちくま学芸文庫、2003)野州都賀郡池森村(現在の栃木県鹿沼市池森村)の百姓初五郎の家に、初五郎の甥…