必要があって、進行性の障害を持つにいたった人類学者の自己研究を通した障害研究を読む。文献は、ロバート・マーフィー『ボディ・サイレント』辻信一訳(東京:平凡社ライブラリー、2006)。
40代半ばのコロンビア大学の人類学の教授が、脊髄腫瘍によって、死に向かって着実に進んでいく障害者としての人生を送るようになった。彼が自身で経験したことを記述しながら、それを人類学の概念装置を用いて解説したのが本書。普通は、人類学者と調査対象というのは別々のものだが、本書では調査対象と調査者が一致しているという、稀有な書物である。人類学の方法論としてのテクニカルな議論はあるだろうけれども、この特殊条件をこの書物は巧く使っていて、とても読みやすい本になっていると同時に、学部の一年生、下手をすると高校生くらいから読める、障害研究と文化人類学の入門書として使われているのではないかと想像する。
やや専門的な話になるが、障害は社会的逸脱か、それともリミナルな境界状態かという議論をしていて、マーフィーは後者の立場をとっている。「実は、病いということ自体、非宗教的・非儀礼的な境界状態のよい例だ。病人は回復するまでの間、社会的に宙ぶらりんの状態を生きる。身障者たちの場合がこれと少し違うのは、彼らは一生を回復という見込みもなくこの宙ぶらりんのうちに生きることだ。いわば彼らは魚類でも鳥類でもない、定義しがたい曖昧なものたちとして社会から半ばはみだしている。」