Entries from 2006-04-01 to 1 month
よく分かりもしないギリシャ・ローマの古典学の研究書を有難がって読むのが私の道楽の一つである。深い学識と緻密な議論がつまった端正な英語の散文にただただ感心しながら読む。読んだ後は、何となく頭が良くなったような錯覚に陥る。今回は、別の文脈で読…
精神薬理学の新しい地平を切り開いた名著、『抗うつ薬の時代』を読む。この10年間、精神医療の歴史に新風を吹き込んでいるデイヴィッド・ヒーリィの出世作である。 精神科薬物療法のヒストリオグラフィを占拠してきた枠組みに、身体療法と心理療法の対立とい…
この20年ほどで、ダニエル・パウル・シュレーバーの『ある神経病患者の回想』は、一躍19世紀と20世紀の文化研究のキャノンにのし上がった。セクシュアリティと身体と民族性と医学の権力と宇宙論の周りを巡って、心の深層をえぐる精緻にして奇怪な妄想の数々…
歴史上、精神障害を理由に刑の減免が訴えられるケースは多かった。そういった記述から、テクニカルな法律上の基準を研究することもできるが、話をもっと広げて、自己の概念を調べようという狙いも成立する。後者の狙いで書かれた18世紀のイギリスの刑事事件…
正確にはなんと読むのか分からないが、ラディスラス・メドゥーナ(Ladislas H. Meduna, 1896-1964) はショック療法のパイオニアの一人である。1934年に最初は樟脳を、後にメトラゾールを用いて分裂病の患者に痙攣を起こさせ、遺伝性で治療が不可能だと思われて…
平均寿命だとか乳児死亡率だとか、そういった指標は、健康転換が始まって以来、ほぼ例外なく改善し続けてきた。「革命」を経たあと、だいたいリニアなトレンドを描く。精神医療の歴史はそれとは全く違う。進歩の歴史ではない。将来のことは分からないが、少…
薬物療法の歴史の関係で、stimulants 刺激物と narcotics 催眠物についての本を読んでみた。このブログでも前に触れたことがある、19世紀後半のニューヨークの流行医で、「神経衰弱」という一世を風靡した疾病概念を作り出したジョージ・ビアードの書物がリ…
今回はレファレンスの紹介である。使い方によっては、ものすごく役に立つ疾病史のレファレンスである。The Cambridge World History of Human Diseases (1993)は、あちこちでくどいほど紹介したから、関係者で知らない人はいないと思う。この不可欠のレファ…
20世紀前半の精神医療における身体療法(妙な言葉だけど)についての研究書を読む。 20世紀の前半は、精神医学がもっとも侵襲的になった時期である。あるいは、患者の身体に強烈な変化を起こして治療を達成するという意味での「ヒロイック」な治療法が全盛を…
昭和戦前期の精神科医療の薬物療法について夏までに論文を書くことになっている。その関係で、1950年代の精神薬理学革命を「内部から」記述した本を読む。 Jean Thuillierは、パリのサンタンヌ病院に勤務していた医者で、1950年代のクロルプロマジンをはじめ…
今年の大きな目標は、日本の病気の歴史の仕事をまとめる、少なくとも目鼻をつけることである。それに加えて、幾つかの精神医療史関係の仕事が入っている。そのためにヒストリオグラフィを学び、背景知識を得たりしなければならない。そんな理由で、ずっと前…
細かい仕事が一段落して、ほっと一息入れて岩波文庫のビゴーの素描集を眺めていたら、ちょっと面白いイラストがあった。 明治政府が取った医療政策の最初の一つが性病対策であったことはよく知られている。慶應年間に横浜の遊女たちに梅毒検査が行われ、明治…
ひきつづき、Ikkaku Ochi である。弁解がましいが、なにせ、歴史研究書ではなく、写真集のレヴューである。歴史書らしい記述はごく少ない。書評の枠組みを全てこちらで作り出さなければならない。書いてみたが、あまりに軽い。知的に重みがある何かが必要だ…
ペッテンコーファーについていい本や論文を探しているが、なかなか見つからない。今回も、英語の古本を買ってみたけれども、あまりよくなかった。 マックス・フォン・ペッテンコーファー (Max von Pettenkofer, 1818-1901)。コッホの説を反駁するためにコレ…
同じく、書評のための読み漁りの一環で、日本の衛生展覧会について考察した書物を読む。衛生関連の歴史について多くの面白い書物を出版しておられる田中聡さんで、私の記憶違いでなければ、研究会で一緒に仕事をしたことが一度ある。 展覧会・博覧会に、衛生…
おなじく、Ikkaku Ochi Collection のための付け焼刃の勉強のために読んだ本からである。木下直之の『美術という見世物』のちくま学芸文庫版である。直接関連する章は二つくらいしかなかったが、余りに面白かったので、つい全部を一気に読み通してしまった。…
学会から帰ってきました。ブログを再開します。 先日紹介した、Ikkaku Ochi Collection の写真集の書評を書かなければならない。そのために、日本の医学と視覚文化の本を何冊か読み漁った。荒俣宏の影響なのか、想像したよりも多くの本が出版されていた。そ…
しばらくお休みをいただきます。 再開は来週の中ごろになります。
アメリカの「闘病記」文学を概観したパイオニア文献を読む。 日本でも「闘病記」というジャンルは確実に定着し拡大している。重篤な病気にかかった本人やその家族などが、病気と死の経験をつづった作品である。このジャンルの作品を専門的に扱う本格的な古書…
イギリスの「ペスト流行記」を分析した論文を読む。 『ロビンソン・クルーソー』で有名なダニエル・デフォーに『ペスト』という作品がある。ロンドン最後の流行となった1665年のペストを、当時の一市民の目から見て語るという仕立ての作品で、1722年に出版さ…
「病原体を主人公にした物語」の構造分析を読む。 「病原体を主人公、あるいは重要な登場人物にした物語」というジャンルは確実に拡大し成長している。歴史の分野では、マクニール、クロスビー、そしてベストセラーになったダイアモンドの『銃・病原菌・鉄』…
書評を依頼された明治期日本の医学写真の写真集を読む - というか、眺める(笑)。 私は寡聞にして全く知らなかったが、九段に成山画廊という現代美術の面白い画廊がある。その画廊が所有する明治期日本の医学写真のコレクションが、スイスの美術出版社から…
ご恵与された論文の紹介の続きである。数年前に一緒に仕事をしてからずっと尊敬している那須敬さんが近著を送ってくださったので、喜んで読む。17世紀イングランドの宗教的寛容という古典的な問題を、とても面白い視点で扱った論文である。 1649年に『コーラ…