Entries from 2012-11-01 to 1 month

『情報歴史学入門』

後藤真・田中正流・師茂樹『情報歴史学入門』(奈良:金壽堂、2009)アーキヴィストたちを相手に話すので、聴衆の感触を得るのにいいかなと思って、花園大学で「情報歴史学」を教える若手の教師3名が書いた教科書をさっと目を通してみた。スタンダード化を意…

松井冬子と九相図

松井冬子が美術史家の山本聡美と一緒に九相図を観るという企画を『芸術新潮』の10月号で読む。死と性と怪異を描いて今を時めく美人日本画家だから、日本の死と腐乱の絵画の古典にどう向き合うかとても興味があったが、正直言って、松井さんの発言は断片的で…

坂口安吾「黒谷村」

坂口安吾「黒谷村」戦前の1931年に発表された中編で、出世作の一つ。青空文庫にある。雑踏の都会で不眠症にかかった神経衰弱の若者が、大学時代の友人で山深い村の寺の住職になった男を訪ねるという舞台である。「山里は猥雑な村であった」最初の日に入った…

坂口安吾「桜の森の満開の下」

坂口安吾「桜の森の満開の下」青空文庫で読んだ。坂口安吾が1947年に書いた短編だから、1946年に「堕落論」を書いて大きな反響を呼び、人気作家というよりむしろ<時の人>と言った方がふさわしいような人物になった頃である。山賊とある女の話である。山賊…

第二次大戦時の米軍将校の精神疾患

Evans, Harrison S., and Harold Ziprick, “Minor Psychiatric Reactions in Officers”, War Medicine, vol.8, no.3 (1945), 137-142.将校における軽度の精神病反応を論じた論文。戦線や時期などは明記していない。診断について。Situation reaction や adul…

マラリア蚊はスカーレット・オハラを刺したか?

Mann, Charles C., 1493: Uncovering the New World Columbus Created (New York: Alfred Knopf, 2011)優れた科学史ジャーナリストのチャールズ・マンは、コロンブスによるアメリカ「発見」直前の世界を描いた傑作『1491』を書いて高い評価を受け、その続編…

米軍プエルト・リコ兵士の精神障碍

Kepecs, Joseph C., “Psychiatric Disorders in Puerto Rican Troops”, War Medicine, 8(1945), 244-249.アメリカ軍の組織や配置のことが良く分からないが、それは後で調べることにして、「運河地域」のプエルト・リコ人の兵士の精神障碍について。プエルト…

第二次世界大戦期アメリカの南太平洋後方病院における神経症患者

Fisher, Edison D., “Psychoneurosis in the Armed Forces”, Bulletin of the U.S. Army Medical Department, vol.7, no.11 (1947), 939-947.アメリカ軍の南太平洋の後送病院 (evacuation hospital) で、1944年の1月から7月まで神経症の患者であったものを50…

ガダルカナルのアメリカ軍の神経症

Lidz, Theodore, “Psychiatric Casualties from Guadalcanal: A Study of Reactions to Extreme Stress”, Psychiatry, vol.9 (1946), 193-213.著者のリッツは、ホプキンスのマイヤーのもとで精神医学を学び、1942年に軍に入隊してガダルカナルの激闘のあとに…

『陸軍軍医学校五十年史』

陸軍軍医学校『陸軍軍医学校五十年史』(1936; 再刊、東京:不二出版、)日本の陸軍の軍陣医学の歴史を研究したいという学生の推薦状を書くために、問題のあたりをつけようと思って『陸軍軍医学校五十年史』に目を通す。昭和11年に刊行されたものだが、731部…

戦前日本における精神分析への批判

フロイトはアメリカを一度訪れたことがあるが、当時のドイツの大学教授やインテリの常として、アメリカを激しく軽蔑してそれを憎んでいた。しかし、フロイトの精神分析学が移植されてのちに世界の精神分析の牙城になったのがアメリカであるのは、歴史の皮肉…

西洋の解剖図と中国医学

http://www.lrb.co.uk/v34/n20/julian-bell/dont-lookイギリスには二つの大きな書評紙がある。Times Literary Supplement と London Review of Books である。イギリスの大学のコモン・ルームや日本の大学の英文科の研究室にいくと、コーヒーテーブルの上に…

『芸術新潮』11月号より「縄文の歩き方」

『芸術新潮』11月号より「縄文の歩き方」『芸術新潮』の11月号で「縄文の歩き方」という特集が組まれている。橋本麻里さんがゲスト・エディターになって、縄文式土器や土偶などの長く愛好されていたものに、縄文人の暮らしや食生活などの面白い企画を添えた…

外傷性神経症(下田、1937)

下田光造「外傷に基く精神障碍に就て」『実地医家と臨床』vol.14, no.4, 1937: 25-31.昭和12年に第50回の福岡外科集談会なる会合で行われた講演である。福岡外科集談会というのは現在も続いている組織である。ネット上で調べると、東京にも「外科集談会」と…

九大の電気痙攣療法

西川修・岩下良雄「種々の精神病に対する電撃療法の試み」『実地医家と臨床』vol.17, no.5 (1940), 57-64.昨日に続いて九大精神科に関連する論文である。下田の時代の九大精神科の先進性を示すものは、『ドグラ・マグラ』のモデルになったということだけでは…

男子ヒステリー論(1932年)

中脩三「特に男子に於ける『ヒステリー』性強迫思考に就いて」『実地医科と臨床』vol.9, no.9 (1932), 747-760.中脩三は九大の下田光造門下の俊英の一人で、台北帝大の精神科の教授をつとめ、戦後には九大や大阪市大で教鞭を取った。もっときちんと調べなけ…

『精神病患者私宅監置の実況』の現代語訳

http://www.igaku-shoin.co.jp/paperDetail.do?id=PA03002_03金川英雄「見知らぬ世界へのどこでもドア―なぜ『精神病患者私宅監置の実況』を現代語訳したのか」呉秀三・樫田五郎『精神病患者私宅監置の実況』は、もともとは『東京医学会雑誌』に連載され、191…

常石敬一『消えた細菌戦部隊―関東軍731部隊』

常石敬一『消えた細菌戦部隊―関東軍731部隊』(1993)関東軍の731部隊(石井部隊)の細菌戦と人体実験が日本人に広く知られるようになったのは、今から30年ほど前の私が高校生の頃だったと記憶している。森村誠一の『悪魔の飽食』がその問題をセンセーショナ…

第6回アジア医学史学会

第6回のアジア医学史学会は、12月13-15日に慶應日吉キャンパスで開催です。 12月13日には午後2時から学生セッション。12月14日には朝の9時に開会して夜の7時まで。3つの全体講演と15のパネル・セッション。夕刻には懇親会、谷口メダルの授与、そして全体講…

謝花昇の精神病

精神医学史のヒストリオグラフィの中で、「患者の歴史」と呼ばれているものがある。ロイ・ポーターが『狂気の社会史』で素描してから脚光を浴びた手法で、非常に興味深いけれども、学問として取り扱うのも難しい。自分で記録を残したり、人々の記録の対象に…

対馬のコレラと明治日本のウォーターフロント

久しぶりに感染症の記事を書く。『日本残酷物語』の第2巻「忘れられた土地」には対馬を扱った章があり、その中で、ある老人が明治40年におけるコレラの流行を語る部分がある。しばらく前にはコレラの流行のことをよく調べていたので、懐かしく読んだ。ポイン…

医学史研究会(11月16日5時―)

医学史研究会のお知らせ11月16日(金)の5時から、慶應義塾大学・三田キャンパスで開催される Lei 先生のセミナーについてご連絡いたします。台湾の中央研究院のSean H-L Lei(雷祥麟)先生は、近現代の中国の医学史研究の中で重要な論文を多く出版されてきま…

フレデリック・フォーサイス『アヴェンジャー』

フレデリック・フォーサイス『アヴェンジャー』昭和生まれでイギリスかぶれだから、ミステリーはジェームズ・ボンドとフレデリック・フォーサイスで事足りている。他にも読んでみたい作家はいるし優れた作品はたくさんあるだろうけれども、どの作品でも安心…

「五天竺図」法隆寺秘宝展

「五天竺図」法隆寺秘宝展年を取ると仏教美術や古美術が有り難くなるものだが、今年の法隆寺秘宝展には「五天竺図」が出展されていた。大蔵経を求めて唐から西域を通ってインドに旅行した玄奘の足跡を記した世界地図である。卵型をした図にインドの諸国が描…

モリエール『病は気から』

モリエール『病は気から』http://www.spac.or.jp/12_malade.htmlモリエール『病は気から』は、1673年に上演されたモリエール最後の作品であり、自分が病気だと思い込んでいる中年男を主人公にした喜劇である。モリエールの作品には当時の医師に対する激烈な…

ヤング『PTSDの医療人類学』

アラン・ヤング『PTSDの医療人類学』中井久夫・大月康義・下地明友・辰野剛・内藤あかね共訳(東京:みすず書房、2001); Young, Allan, The Harmony of Illusions: Inventing Post-Traumatic Stress Disorder (Princeton, NJ: Princeton University Press, …

東京の空襲と精神病

植松七九郎・鹽入圓祐「空襲時精神病―第一篇 直接空襲に基づく反応群」『慶應医学』25巻、2,3号(1948), 33-35.昭和19年11月から翌年8月までの東京で空襲の際に発し、空襲に直接的に関係する精神疾患で、主として心因反応によるものを扱う。この9か月間の…

川添裕『江戸の見世物』

川添裕『江戸の見世物』(東京:岩波書店、2000)木下直之『美術という見世物』には、明治期の医学史の人体模型の作成には生人形(いきにんぎょう)の技術が活躍したという話が詳細にされていて、ゲーテの研究者で医学史を研究している石原あえかさんとハン…

第6回アジア医学史学会プログラム(仮)

The Sixth Conference for the Asian Society for the History of Medicine13-15 December 2012 Keio University (Hiyoshi Campus)13 December 2012 15.00 – 17.00 Graduate SessionsMotoyuki GOTO, “Reconsider the historical meaning of the Mental Patie…