『精神病患者私宅監置の実況』の現代語訳


金川英雄「見知らぬ世界へのどこでもドア―なぜ『精神病患者私宅監置の実況』を現代語訳したのか」
呉秀三・樫田五郎『精神病患者私宅監置の実況』は、もともとは『東京医学会雑誌』に連載され、1918年に単行本の形で出版された。呉秀三を教授とする東大の精神科研究室が行った大がかりな患者調査の報告であり、その対象は主として私宅監置された患者であった。私宅監置に関する調査としては、最大にしておそらく唯一の刊行された書物である。原書は復刻されており、現在でも入手可能である。

この書物が「現代語訳」されると聞いたときに、私たちの多くは虚を突かれたような感じがした。この難解な漢語調の文章で書かれた書物を現代語訳することがたしかに大きな意味を持っていることは言われればわかるのだが、その発想がなかった。もう一歩踏み込んでいえば、少なくとも私について言えば、この本を現代語訳する仕事は学術的に価値が低いと、頭のどこかで思っていたといってもよい。金川さんは、そういうアカデミズムのスノバリーで凝り固まっていることが自分で見えていない人文系の学者を尻目にして、この書物を現代語訳されたことになる。いやはや、恐れ入りました。

その結果、この書物は、現在ちょっとしたブームになっている。精神医学史という小さな世界にとっては、おそらくもっとも重要な古典が突如として人々に読まれるようになるという、巨大な転換点になろうとしているといってもよい。先日の学会では、医学書院のブースで本書がまるでタイルのように敷き詰められて、飛ぶように売れていた。同じ医学書院の『Medicine 医学を変えた70の発見』も並べられていたが、それに手を伸ばすひとなど一人もいなかった(笑)

橋本明先生と話したのですが、次は漫画化ですね。いえいえ、冗談ではありません。私たちは本気ですよ。