Entries from 2007-01-01 to 1 month

老水夫行

コールリッジ「老水夫行」The Rime of the Ancient Mariner を読む。 アメリカの「老い」の文化史の研究書を読んでいるが、その中で「老水夫行」に触れていたので、20年ぶりくらいで読み返してみた。対訳付の岩波文庫版(上島健吉訳)のほか、色々な版のテキ…

ペストと犬の大虐殺

ペスト流行時の犬の大虐殺についての論文を読む。文献は Jenner, Mark S., “The Great Dog Massacre”, in William G. Naphy and Penny Robert eds., Fear in Early Modern Society (Manchester: Manchester University Press, 1999), 44-61. 著者のマーク・…

若さの泉

今日は図版の紹介を。必要があって老年学についての本を読み始めた。私が知らない史実や考え方ばかりで、どれも新鮮で面白い。ルーカス・クラナッハに「若さの泉」(1543)という絵画があって、これは面白い。冒頭から順に、老女たちが泉に運ばれ、そこで水…

ナイジェリアの精神病院

ナイジェリアの精神病院についての研究書を読む。文献はSadowsky, Jonathan, Imperial Bedlan: Institutions of Madness in Colonial Southwest Nigeria (Berkeley: University of California Press, 1999). 植民地における精神医療は、地域ごとに大きな違い…

北米の精神医学と優生学

アメリカとカナダの精神医学者にとっての優生学が持っていた意味を論じた研究書を読む。文献はDowbiggin, Ian Robert, Keeping America Sane: Psychiatry and Eugenics in the United States and Canada 1880-1940 (Ithaca: Cornell University Press, 1997 …

オーストラリアの精神医療の歴史

必要があって、オーストラリアの精神医療の歴史の論文集に目を通していたら、シンプルだけど重要な論文があった。文献は、Finnane, Mark, “From Dangerous Lunatic to Human Rights?: the Law and Mental Illness in Australian History”, in Catharine Colb…

国際精神医療

10年前の国際精神医療の概観書を読む。文献はDesjarlais, Robert, Leon Eisenberg, Byron Good and Arther Kleinman, World Mental Health: Problems and Priorities in Low-Income Countries (Oxford: Oxford University Press, 1995). 国際公衆衛生の本と…

医療の組織化と実験室医学

19世紀から20世紀の実験室医学の興隆についての研究論文を読む。Sturdy, Steven and Roger Cooter, “Science, Scientific Management, and the Transformation of Medicine in Britain, 1870-1950”, History of Science, 36(1998), 421-466. 「科学」が何を…

地図作成の科学

ひきつづき、初期近代の地図学の論文を読む。文献はTurnbull, David, “Cartography and Science in Early Modern Europe: Mapping the Construction of Knowledge Space”, Imago Mundi, 48(1996), 5-24. この30年ほどの科学論の常套句に、「科学は普遍的な知…

地図と権力

未読山から初期近代のヨーロッパの地図を知/権力の視点から分析した論文を読む。文献はHarley, J.R., “Silences and Secrecy: the Hidden Agenda of Cartography in Early Modern Europe”, Imago Mundi 40 (1988): 57-76 地図における「沈黙」という概念をキ…

医学写真

しばらく前に古い医学写真のコレクションを書評したこともあって、少し気をつけて医学写真を見るようにしているが、この写真は、特に気をつけなくても目についてしまう代物である。嫌がる女を無理やり・・・というレイプ写真に見えるのは、私の妄想だけでは…

昭和の乞食

なぜこの本を読もうと思ったのか分からないが、秘書が借り出してくれた本の山の中に面白い本があった。文献は石角春之助『乞食裏譚』(東京:文人者出版部、1929) 昭和戦前期の浅草の乞食の生態が描かれている本である。乞食には階級があるという話で、厳格…

ダ・ヴィンチの解剖学

しばらく前の授業で、サチコ・クスカワさんが書いたルネサンスの解剖学についての優れた文献を読んだ。その時に、これと似たようなことをどこかで読んだことがある、と引っかかっていたことがあって、記憶をたぐってレオナルド・ダ・ヴィンチの解剖学ノート…

社会医学のトランスファー

たまたま借りた論文集に、予想していない面白い論文があった。文献はMurard, Lion, “Atlantic Crossings in the Measurement of Health”, in Berridge, Virginia and Kelly Loughlin eds., Medicine, the Market and the Mass Media: producing Health in th…

『天平の甍』

今日は無駄話を少し。 年末に奈良に行ってありきたりの観光コースを平凡に回ってきた。ガイドブックのモデルコースそのままと言っていい。その中でもまず薬師寺の新しい回廊が印象深かった。回廊に囲まれたこの空間で1000年以上も前に学問をしていた仏教僧た…

ロンドンの「アメリカ人」医師

未読山の中からいかさま医学のイコノグラフィの論文を読む。文献はSchupbach, William, “Illustrations from the Wellcome Institute Library: Sequah: An English “American Medicine” – Man in 1890”, Medical History, 29(1985), 272-317. 1880年代の後半…

コレラ患者と保菌者

コレラの発病率を調査して研究した論文を読む。文献は、原田四郎「虎列刺患者並ビニ其ノ保菌者ニ就テ」『金沢医学専門学校十全会雑誌』23(1921), 16-30. コレラは感染しても発病するとは限らない。軽い下痢程度で済んだり、あるいは症状がほとんど出なかった…

道徳と健康

コレラの準備のために、10年ほど前にでた「道徳と健康」の論文集を読む。文献は、Brandt, Allan M. and Raul Rozin eds., Morality and Health (New York: Routledge, 1997). 教科書的に使われることを想定したのか、どれも専門家でなくても読みやすく書かれ…

リンゴと猥談

コレラのリサーチの関係で、流行時の特定の食物忌避に触れる。ちょっと気が利いた概念を探して、手元の文献を読む。しばらく前に「身体の社会学特論の女王」として紹介したデボラ・ラプトンの本である。Lupton, Deborah, Food, the Body and the Self (Londo…

昭和の細民と低湿地の水利

コレラ論文の準備のついでに、少し新しい東京の貧民窟はどんな風に書いてあるのかを見ようかと思って、手元の「東京本」に目を通す。文献は今和次郎『新版大東京案内』上・下(東京:ちくま学芸文庫、2001) 昭和4年に出版された書物。関東大震災からの復興…

遡及的診断・中世ヨーロッパ編

hitomidon さんのところで、『トリスタンとイゾルデ』のイゾルデの死因が話題になっている。(http://blogs.yahoo.co.jp/hitomidoniine/44000084.html) 色々なテキストではイゾルデの死因が分からないということらしい。死因を確定するのは、やっぱり現実に自…

島根の狐憑き

妙な話だが、コレラの準備で、島根の狐憑きの古典的な報告を読む。文献は島村俊一「島根県下狐憑病取調報告」『東京医学会雑誌』6(1892), 699-705, 769-778, 981-986, 1049-1055, 1141-1146, 7(1893), 124-128, 233-236, 468-471. しばらく前にコレラと狐憑…

中国開港場の<衛生>の歴史

コレラの論文の関係で、話題の書物を読む。文献はRogaski, Ruth, Hygienic Modernity: Meanings of Health and Disease in Treaty-Port China (Berkeley: University of California Press, 2004). 近代中国の医学・公衆衛生の医学史の本格的な研究書。1850年…

紅白歌合戦と New Years's Eve

今日は無駄話を少し。素材は、2006年12月31日にNHK総合TVなどで放送された「第57回 NHK 紅白歌合戦」。イスラエルのロボトミーとか、古代ローマの養生論だとか、19世紀ドイツの疾病分類といった話題が主体だったこのブログが、国民の40%が視聴したマテリア…

コレラと木賃宿

コレラの論文の準備が続く。ちょっと気になったことがあって、横山源之助『日本の下層社会』(東京:岩波文庫、1949)をチェックする。 都市の非定住労働者と疫病の関係に最近注目している。いくつかの感染症のアウトブレイクは、現実に都市の非定住民と関係…

精神病と血液研究

新着雑誌から、精神病の血液検査の歴史を概観した論文を読む。文献はNoll, Richard, “The Blood of the Insane”, History of Psychiatry, 17(2006), 395-418. 2005年に精神病患者の血液からRNAを採取して検査すると、統合失調症と躁鬱病を区別して診断できる…

19世紀ロンドンの種痘

19世紀の天然痘と種痘についての論文を続けて読む。文献は、Mooney, Graham, “A Tissue of the Most Flagrant Anomalies: Smallpox Vaccination and the Centralization of Sanitary Administration in Nineteenth-Century London”, Medical History, 41(199…

種痘の英独比較史

19世紀の種痘をめぐる政策のイギリスとドイツの比較史を読む。文献はHennock, E.P., “Vaccination Policy against Smallpox, 1835-1914: A comparison of England with Prussia and Imperial Germany”, Social History of Medicine, 11(1998), 49-71. 健康や…

大量殺戮の疫病が来る

授業の準備でローリー・ギャレットの『カミング・プレイグ-迫りくる病原体の恐怖』を読む。山内一也の監訳で、河出書房新社から2000年に上下で翻訳が出ている。 日本の感染症の歴史をまとめる仕事を始めて、現代の新興・再興感染症のルポルタージュの名著の…

産科医の教育

前に読んだ論文に何となく目を通していたら、ふと目にとまった一節があったので。 文献は、Schlumbohm, Juerden, “‘The Pregnant Women Are Here for the Sake of the Teaching Institution’: The Lying-In Hospital of Goettingen University, 1751 to c.18…