Entries from 2015-05-01 to 1 month

救貧法と精神医療

Ellis, R. (2006). "The asylum, the Poor Law, and a reassessment of the four-shilling grant: admissions to the county asylums of Yorkshire in the nineteenth century." Soc Hist Med 19(1): 55-71.19世紀イングランドの精神病院は、1980年代から90…

19世紀の生理学と「扇情小説」について

Kennedy, Meagan, “Some Body’s Story: The Novel as Instrument”, Novel: A forum on Fiction, 42:3 (2009), 451-459. イギリスで1860年代から流行した「センセーション小説」と同時代の医学、特に実験室で現れた生理学との関係についての的確な分析を読ん…

マラリアの歴史

ソニア・シャー『人類50万年の闘い マラリア全史』夏野徹也訳(東京:太田出版、2015) マラリアの歴史と現在についての書物を『週刊読書人』に書評した。個人的な話になるが、マラリアについての本を公の場で書評するのは初めてで、何か意味あることが書け…

「自家中毒」理論と19-20世紀の精神疾患の病因論・治療論

精神疾患の原因としての「自家中毒」の理論 Noll, Richard, “Historical Review: Autointoxication and Focal Infection Theories of Dementia Praecox”, World Journal of Biological Psychiatry, (2004), 5, 66-72. クレペリンを軸にして、19世紀末から20…

「未来の医療はどうなるだろうか?」

Amazon.co.jp: サイエンス・ブック・トラベル: 世界を見晴らす100冊: 山本 貴光: 本amzn.to 山本貴光編『サイエンス・ブック・トラベルー世界を見晴らす100冊』(河出書房新社、2015)に、「未来の医療はどうなるだろうか?」という小文を書きました。基…

オペラ『椿姫』 新国立劇場

新国立劇場でオペラ『椿姫』を観る。新制作ということで、舞台と衣装と演出が非常に凝った斬新な企画になっていて、驚いたり感心したり心配したり首をひねったりしたが、なによりも大切な要素である歌が格段に素晴らしく、魔力の域に達していたと思う。ソプ…

福澤諭吉の漢詩「医師に贈る」

『福澤研究センター通信』22号(2015年3月31日)に、福澤が門下生に贈った漢詩があり、それが医師に贈るという内容だったのでメモ。 門下生は奥山春枝という人物である。明治26年に卒業し、職業は銀行の資産運用業として近代日本の経済界で活躍したとのこと。…

ひらりねこ救出事件(笑)

昨日おきた「ひらりねこ救出事件」について。医学史とはまったく無関係な無駄話ですので、どうぞ読み捨ててくださいませ。 家ではネコ一匹と暮らしている。名前は「ヒラリー」といい、2008年の6月ごろにまだ若いネコが一匹庭にやってきて、お腹が空いたから…

中世の幻覚と黙示録的な疫病

Landes, Richard, “Between Aristocracy and Heresy: Popular Participation in the Limousin Peace of God”, in Thomas Head and Richard Landes eds., The Peace of God: Social Violence and Religious Response in France around the Year 1000 (Ithaca:…

中世ヨーロッパのハンセン病・再考

Timothy S. Miller and John W. Nesbitt, Walking Corpses: Leprosy in Byzantium and the Medieval West (Ithaca: Cornell University Press, 2014). 中世ヨーロッパのハンセン病の歴史は、医学史の定番メニューの一つ。今年はハンセン病を2回講義して、「…

「聖アントニウスの火」

聖アントニウスの誘惑 「聖アントニウスの火」と呼ばれた病気を描いたとされる二つの絵を分析した。一つはボッシュの『聖アントニウスの誘惑』、もう一つはグリューネヴァルトの『イーゼンハイムの祭壇画』の中の『聖アントニウスの誘惑』である。 リスボン…

貧民から歯を抜いて、それを金持ちの入れ歯とすること

18世紀の入れ歯について 18世紀のヨーロッパにはアメリカ新大陸のプランテーションが成功したサトウキビから製造された砂糖が普及する一方、歯科衛生がまだ発展していなかったため、歯の状況は人類史上最悪だったと言われている。しかし、すぐに歯科医療が発…

文系と理系のデューラー『メレンコリアI』(1514)

デューラー『メレンコリア I』 Phillips, Michael, William Blake: Apprentice and Master (Oxford: Ashmolean, 2014). Klibansky, Raymond, Erwin Panofsky and Fritz Saxl, Saturn and Melancholy: Studies in the History of Natural Philosophy, Religio…

戦前の医学における日本食主義と精神医学

諸岡存『快食快眠快便』(東京: 實業之日本社, 1939) 諸岡存(たもつ)は精神病学者で医学啓蒙家。九州帝国大学精神科の助教授であったが、教授の榊保三郎が不祥事で退職し、下田光造が教授に就任したのちに九大を退職した。東京に移動して、ジェームズ坂…

症例が持つ文学の構造

Hurwitz, Brian, “Form and Representation in Clinical Case Histories”, Literature and Medicine, vol.25, no.2 (fall), 2006, 216-240. ヒポクラテスから17,18世紀を経て、19世紀と20世紀にいたる医学における症例の文学的な形式を分析した論文。もとは…

「ふたりの女」(静岡SPAC公演)

静岡の日本平にある野外劇場で、劇団SPACの公演で唐十造「ふたりの女」を観る。演出はSPACの芸術監督の宮城聡さん。私が30年以上前に最初に観たお芝居の演出も宮城さんだった。 今日は、学問とか歴史とか医学史とか、そういういつも書いていることとは無関係…

20世紀後半の美容整形とアメリカの戦争

Haiken, Elizabeth, Venus Envy: A History of Cosmetic Surgery (Baltimore: The Johns Hopkins University Press, 1997)より。 美容整形外科の歴史は、1990年代の後半から注目を集め、1999年のサンダー・ギルマンの多くの画像を用いた鳥瞰的な書物や、1997…