救貧法と精神医療

Ellis, R. (2006). "The asylum, the Poor Law, and a reassessment of the four-shilling grant: admissions to the county asylums of Yorkshire in the nineteenth century." Soc Hist Med 19(1): 55-71.

19世紀イングランドの精神病院は、1980年代から90年代にかけての研究を通じて、精神医療の社会史の基本的な方法と問題が形成された研究対象である。そのアーカイヴズは多様で複雑であり、精神病院への入退院と医療はもちろん、行政、経営、家族や地域社会との関係などについての充実した資料がそろっていて、精神医療の歴史の研究の基本的な方法や視角が開拓された。この論文も、当時の手法や発想法を用いて、新しい問いを立てている。基本は、1874年に法律の改正があって、精神病院に入院した患者一人当たりにつき週に4シリングの割合で、国庫が地方(救貧法のユニオン)に対してコストを支払うという体制になったこと、それがどのような意味を持つのかという解釈の問題である。

イギリスの公立精神病院の主たる機能は、精神病患者とその家族に対して、経済的・社会的に安定した生活の、入退院の権限は医者ではなく地方政府にあった。家族もかなり大きな発言権を持っており、医者の発言権は一番小さかったというのが歴史家たちの合意である。1874年の改革は、入退院の権限を持ち、在院期間に応じて州に対して支払いをする地方政府の経済的な負担を軽減するものである。長期間入院させても、これまでよりも負担はかなり軽減することになる。これを解釈するのに、これはイングランドの州立精神病院が短期間在院して治療を目指すというかつて描いていたモデルから離れて、長期間在院する「狂気の博物館」に移行するきっかけであるというものであった。