Entries from 2010-05-01 to 1 month

流言蜚語と公・共・私

送られてきた雑誌を読まずに積んでおいて、その中の論文に素晴らしいインスピレーションを与えるものがあった。文献は、佐藤健二「関東大震災における流言蜚語」『死生学研究』10(2008), 45-110. 関東大震災における流言蜚語の伝播の様子を分析して、そこか…

『薮原検校』

必要があって、井上ひさしの戯曲『薮原検校』を読む。文献は、井上ひさし『新釈 遠野物語 薮原検校』(東京:新潮社、1981)東北の各地には「座頭池」や「盲沼」のような不気味な名前がついた、暗緑色の腐れ水をたたえた沼がある。これらは座頭があやまって…

感染症とセキュリティ

必要があって、ポリティカルサイエンスにおける感染症とセキュリティの議論を読む。文献は、Price-Smith, Andrew T., Contagion and Chaos: Disease, Ecology and National Security in the Era of Globalization (Cambridge, Mass.: The MIT Press, 2009).…

国民優生法の成立

必要があって、国民優生法の成立過程を詳細にたどった研究を読む。藤野豊『日本ファシズムと優生思想』(京都:かもがわ出版、1998)の第六章である。著者はハンセン病対策などについて重要な著作を何冊も出版しており、この時期の医学史研究の興隆に大きく…

大東亜共栄圏の思想

必要があって大東亜共栄圏の思想についての入門書を読む。栄沢幸二『「大東亜共栄圏」の思想』(東京:講談社、1995)実力がある学者が重厚な学識を背景にわかりやすく書き下ろした書物で、あるべき新書の姿だと思う。そのせいだろうか、大東亜共栄圏の思想…

児玉幸多『くずし字解読辞典』

必要があって、有名な児玉幸多『くずし字解読辞典』を買う。一念発起して江戸時代の古文書を読む本格的な近世研究を始めたわけではもちろんなくて、谷崎由実さん事件(笑)のあとで、昭和期のカルテを読むのに、やっぱり必要だと悟ったからです。私はレファ…

怪物の二つの類型

必要があってダストンとパークの驚異についての名著を読み直す。文献はDuston, Lorraine and Katharine Park, Wonders and the Order of Nature 1150-1750 (New York: Zone Books, 1998)。必要だったところは、古代から中世にかけてのヨーロッパにおいては、…

『帝国日本と人類学者』

必要があって、日本の人類学の歴史を論じたスタンダードな書物を読む。文献は、坂野徹『帝国日本と人類学者 1884-1952』(東京:勁草書房、2005)すぐれた書物で、日本人類学が成立するときのオリエンタリズムの問題、日本内部の他者(アイヌ)と日本人の起…

犯罪者の精神病学研究

必要があって、陸軍の犯罪兵の処罰機関を素材にした論文を読む。文献は、三宅鉱一・杉江董「在姫路陸軍懲治隊懲治卒の精神状態視察報告書」『児童研究』17(1914), 241-253, 351-364.M44に東京帝国大学より依頼され、姫路の陸軍懲治隊で50名の処罰者の身体・…

萩尾望都「半神」

知人に進められ、また必要があって、萩尾望都の短編のマンガを読む。「半神」という作品で、『萩尾望都パーフェクトセレクション』の中の自選短編作品集に入っている。シャム双生児の姉妹の片方は白痴で美しく愛され、もう片方は醜くて親に疎まれているが頭…

セックスと生命

必要があって、ホルモンについての研究書を読み直す。文献は、Sengoopta, Chandak, The Most Secret Quintessence of Life: Sex, Glands, and Hormones, 1850-1950 (Chicago: University of Chicago Press, 2006)内分泌学の歴史を中心に性科学の歴史をまとめ…

医学史教科書

必要があって、初期近代医学史の教科書をチェックする。 Lindeman, Mary, Medicine and Society in Early Modern Europe (Cambridge: Cambridge University Press, 1999).初期近代(1500-1800年)のヨーロッパの医学史の教科書的なものは何冊かあるけれども…

『精神保健福祉行政のあゆみ』

必要があって、『精神保健福祉行政のあゆみ』(東京:中央法規出版、2001)を読む。1950年に精神衛生法が施行されてから50周年を記念して出版された資料である。1900年に制定された精神病者監護法は現在でも非常に評判が悪い法律である。私宅監置を制度化し…

江戸後期京都の医者

必要があって、江戸後期・幕末に京都で活躍した蘭方医の臨床談話録を読む。文献は、小石元瑞『檉園小石先生叢話 復刻と解説』正橋剛二編(京都:思文閣、2006)小石元瑞(1784-1849)は京都の有力な医者で医学教師。彼がおそらく患者を見ながら語ったことを…

シャルコーとフロイト

必要があって、シャルコーとフロイトの臨床テクニックによってヒステリー患者がどのように構成されたのかという論文を読む。文献は、De Marneffe, Daphne, “Looking and Listening: the Construction of Clinical Knowledge in Charcot and Freud”, Signs, 1…

『感染症は実在しない』

必要があって、岩田健太郎『感染症は実在しない』(京都:北大路書房、2009)を読む。同じ著者の『麻疹が流行する国で新型インフルエンザはふせげるのか』は、ちょっと失望したけれども、この書物は科学論に基づいて感染症の構成主義的な理解をといた優れた…

シーボルト日本植物誌

必要があって、シーボルトの日本植物誌を読む。文献は『シーボルト日本植物誌』大場秀章監修・解説(東京:ちくま学芸文庫、2007)世界で最初の日本植物の本格的な彩色の図譜で、有名なシーボルトが帰国後の1835年に出版をはじめ、35年後の1870年にやっと出…

戦前の「精神薄弱」論争

必要があって、日本における精神薄弱概念の歴史を研究した書物を読む。文献は、高橋智・清水寛『城戸幡太郎と日本の障害者教育科学-障害児教育における「近代化」と「現代化」の歴史的位相』(東京:多賀出版、1998)特に3章が精神医学者も参加した1930年代…

イギリスの精神科リハビリ

必要があって、イギリスの精神科リハビリの概説書を読む。文献は、ジェフ・シェパード『病院医療と精神科リハビリテーション』斉藤幹郎・野中猛訳(東京:星和書店、1993)常識的で、イギリスのカリカチュアといってもいいようなスタンスだけれども、日本の…

「生活臨床」について

必要があって、「生活臨床」についての回顧的な論文を読む。文献は、台弘「『生活臨床』の展開とその今日的意義」昼田源四郎編『日本の近代精神医療史』『精神医学レビュー』No.38(2001), 71-79.昭和30年代はじめに小林八郎がとなえた「生活療法」をヒントに…

精神保健福祉法以前

必要があって、精神保健福祉法までの経緯を解説した論文を読む。文献は高柳功・仙波恒雄「精神保健福祉法改正とその背景-戦後精神科医療の歩み」高柳功・山角駿編集『精神保健福祉法の最新知識-歴史と臨床実務』(東京:中央法規、2007), 167-198.1950年…

ウェルビーイングと芸術

必要があって、ウェルビーイング (well-being)についての論文集から、芸術と健康・ウェルビーイングについての論考を読む。文献は、Haley, David and Peter Senior, “Art, Health and Well-Being”, in John Haworth and Graham Hart, Well-being: Individual…

精神医学用語統一

必要があって、1930年代の精神神経学会の用語統一についての議論を読む。文献は、林道倫「精神病学用語統一試案に関する覚書」『精神神経学雑誌』42(1938), 446-457.石川貞吉「神経精神病学用語(精神病学之部)統一委員会試案読後感」『精神神経学雑誌』42(…

アメリカの精神病院改革

必要があって、1950年代に行われたアメリカの精神医療改革調査の報告書を読む。文献は、Greenblatt, Milton, Richard H. York and Esther Lucile Brown, From Custodial to Therapeutic Patient Care in Mental Hospitals (New York: Russell Sage Foundatio…

第二次大戦前夜のヨーロッパ精神医療

必要があって、第二次大戦の直前に、イギリスの指導的な精神科医がドイツを除くヨーロッパ各国の大学精神医学科、精神病院などを回って書いた報告書をチェックする。ロックフェラー財団に提出されたこの報告書は翻刻されていて、現在では Medical History Su…

精神科作業療法の根本

必要があって、精神科作業療法の概論を読む。文献は、日本作業療法士協会編著『作業療法学全書 第五巻 作業治療学2 精神障害』(東京:協同医書出版社、1994)20世紀の後半に、疾病に対して「障害」、治療に対して「リハビリテーション」という概念が整理さ…

イソヒヨドリ

今日は無駄話日本野鳥の会は標準的なフィールドガイド以外にも何種類かのハンディな図鑑を発行している。フィールドガイドは使い慣れているせいか、一番使いやすいと思うけれども、誰でも目にする機会があるスズメとかツバメのような鳥と、「1934年に迷鳥と…

精神科作業療法の歴史

必要があって、精神科作業療法の歴史が書いてある作業療法の概説書を読む。文献は、富岡詔子編『作業治療学2 精神障害』(東京:協同医書出版、1999)作業療法士が書いた概説書の中の短い歴史の記述である。業界内部の人間が書いた歴史に特徴的な長所も短所…

淫事と精神病

必要があって、日本のマスタベイションと精神病の関係についての医学・精神医学の学説史をまとめた研究を読む。文献は岡田靖雄「淫事と精神病-精神病学学説史の一断面-」『日本医史学雑誌』35(1989), 1-25.日本の医学において手淫の害を説く学説は西洋医学…

山下清と絵画の特異児たち

必要があって、山下清と同じ施設(八幡学園)の障害児たちの絵画作品を論じた研究を読む。文献は、三頭谷鷹史『宿命の画天使たち 山下清・沼祐一・他』(東京:美学出版、2008)昨日記事にした花田の書物と同じように、山下清をはじめとする障害児の絵画につ…