精神科作業療法の根本

必要があって、精神科作業療法の概論を読む。文献は、日本作業療法士協会編著『作業療法学全書 第五巻 作業治療学2 精神障害』(東京:協同医書出版社、1994)

20世紀の後半に、疾病に対して「障害」、治療に対して「リハビリテーション」という概念が整理され、障害とリハビリテーションはどのように医学と関係を持つのかということが議論された。一方、精神医学にこのリハビリテーションという概念を持ち込んだときには、ある種の混乱と抵抗があったという。身体疾病では、脳卒中とその後の麻痺のように、疾病とその後遺症という分け方が截然とできるが、精神疾患では、どこまでが疾病そのもので、どこがその後遺症・結果なのかという区分わけが難しい。ある行動は、病気の症状とも読めるし、病気の結果としての能力低下であるとも読める。その中で、病気に対する治療・障害に対するリハビリという二元論を認めるということは、精神医療の敗北を認めることだという雰囲気があったという。また、精神医学は、入院治療を重視し、生活場面での障害やその軽減に大きな関心を持ってきた。しかし、これは、医療が提供できるサービスの限界を見極めることよりも、その範囲を拡大することに力点がおかれていた。

精神科作業療法は、病気に対する治療として概念化されて出発したが、戦後には障害に対するリハビリテーションとして行われた。1965年に松澤病院の江副勉がまとめた図式によると、戦後日本の精神病院革命の基底には薬物療法の進歩がある。かつての電気ショックのように患者の同意を取るのが難しく、医者と患者の信頼関係を破壊する力が大きい治療法とは反対に、戦後のクロルプロマジンを代表とする薬物療法は、患者の治療への抵抗が少なかった。ここで培われた医者と患者の正常な関係をもとに、通院治療の重視、デイケアなどのリハビリ、入院を絶対視せずにむしろそれから積極的に離脱をうながす精神医療が現れた。