Entries from 2015-07-01 to 1 month

酒呑みの父親を持つ子供はどうして共産主義者になるか(笑)

諸岡存の評論をもう一つ。 諸岡存「優良児と劣等児の観察」『尋一母子講座 第二巻』(東京:非凡閣、1938), 335-362. 同じ諸岡の評論。子供の教育に関して昭和13年に出版された「家庭教育の指標」シリーズの第二巻。優良児と劣等児について色々と雑駁なこと…

昭和戦前期の医療の危機とその解決法について

諸岡存・島影盟『医道革新論―医療制度と医療費を中心に』(東京:大東出版社、1937) 諸岡存(もろおか・たもつ)は医師で九州大学の精神科の助教授であった。夢野久作が『ドグラ・マグラ』の準備のために、九大の精神科を訪れては精神病について学んでいた…

16世紀の梅毒患者の自己認識

オットー・フラーケ『フッテン―ドイツのフマニスト』榎木真吉訳(東京:みすず書房、1990) ウルリッヒ・フォン・フッテン (Ulrich von Hutten, 1488-1523)はドイツの学者・詩人・宗教改革者。医学史では、梅毒にかかって1519年に『グアイヤクノキの薬とフラ…

外国人観光客向け医学史の史跡?

皆さまのお知恵を拝借したく投稿しています。ビル・バイナム先生にご紹介されたオーストラリアの旅行エージェントからの問い合わせで、日本に来る外国人観光客向けの医学史関連の史跡は何かという質問を受けています。コアな趣味を持つ人たちのためのさまざ…

『医学の歴史』(仮)002 第一巻第三章1, 2, 3, 4, 5 節

ルネサンスの解剖学とその発展 はじめに―古代・中世の解剖学と近代解剖学の連続と断絶 近代ヨーロッパの医学を、古代・中世のヨーロッパの医学と、中国やインドの他の文明の医学の双方と較べたときに、最初に現れた大きな特徴は、人体解剖を実際に行うことが…

『医学の歴史』(仮)001 第一巻三章の一部

しばらく中断していた『医学の歴史』(仮)の執筆と連載を再開します。予定では2巻本で30章程度、カバーする時期は1500年から20世紀後半までになります。新しい医学史研究の成果を反映させた、わかりやすい入門的な内容とするつもりです。ここにアップしてい…

大東亜共栄圏にて、熱帯の病気を日本の民間薬で治すこと。

『帝国日本と台湾・南方』コレクション 戦争と文学18 編集委員 浅田次郎・奥泉光・川村湊・高橋敏夫・成田龍一、編集協力 北上次郎(東京:集英社、2012) 何点かとても面白い作品があった。一つ、医学史的なことをメモ。 海音寺潮五郎「コーランポーの記」 …

高橋新吉「うちわ」(『戦争と文学』より)と精神病者の主観のアーカイヴ

『イマジネーションの戦争』コレクション 戦争と文学5 編集委員 浅田次郎・奥泉光・川村湊・高橋敏夫・成田龍一、編集協力 北上次郎(東京:集英社、2011) 芥川龍之介「桃太郎」と高橋新吉「うちわ」が参考になった。 芥川龍之介「桃太郎」。桃太郎の昔話を…

小松左京と原子爆弾とタコの火星人

小松左京「なぜSF小説を書きはじめたのか」コレクション 戦争と文学 『イマジネーションの戦争』月報4(集英社、2011.9) 少年時代は好奇心旺盛、本はよく読んでいた。漫画は「幼年倶楽部」連載の「タンク・タンクロー」、「少年倶楽部」の「のらくろ」。少…

佐々木蔵之介の『マクベス』

パルコ劇場で公演中の『マクベス』を観た。もともとはグラスゴウで上演し、大好評を博してNYでも上演した演出。精神病院に収容され独房に隔離された精神病患者が、その妄想の中で『マクベス』をすべて一人芝居で再現するという独創的な演出。マクベス、マク…

<大和魂は大変結構だが、だからと言って日本人に精神疾患が少ないわけではない>

村松英雄『戦争と精神病』日本精神衛生協会刊・精神衛生パンフレット7号、脳研究所、(1938). 村松は東大精神科を出て、ロックフェラーの研究員としてハーヴァードに留学したのち、ドイツにも留学した。東大と松沢病院で活躍したのち、1950年に名古屋大学の精…

飯山由貴「 Temporary home, Final home 」(愛知県美術館)

飯山由貴「 Temporary home, Final home 」 《何が話されているのか、また何故その発話の形式と内容は、そうした形をとるのか》 映像、2015 年 飯山由貴(1988 年、神奈川県生まれ)は特定の事柄について独自に調べ、そこで考えたことや感じたことを編み物か…

誤訳訂正 - 「アメリカの母体死亡率はなぜ発展途上国より高いのか 」について

先日アップした記事、「アメリカの母体死亡率はなぜ発展途上国より高いのか」について、もとのエコノミストの記事の誤訳に基づいているという指摘を受けました。直接私の目につく形で指摘してくださったのは、ツイッター上の くまさん@bibliobibi でした。お…

夏の庭から・クレマチス・ドウダンツツジ・カラミンサ

夏の庭から。 クレマチスは、「花」と呼ばれているものが、植物学的には実は「萼」(がく)で、この時期にできる種子も、花火のような面白い形をして綿毛がついている。これが絡み付いているのが面白い。種子の写真と、参考までに「花」の写真。 ドウダンツ…

『セイチェント』

『セイチェント』は古楽のイヴェント。ロンドン大学・ゴールドスミス・コレッジで教えておられる松本直美先生が軸になって、古楽についてレクチャー、コンサート、レッスン、セミナーを織り交ぜて3時間ほどのプログラムになっている。東京と大阪で提供され、…

ヒルシュフェルトの性科学研究所とナチスによるその破壊

The Institute of Sexology (London: Wellcome Collection, 2015). ロンドンのウェルカム医学史図書館(旧称)で The Institute of Sexology というタイトルの展示がされている。このタイトルは、ベルリンの医師で性科学者のマグヌス・ヒルシュフェルト (Mag…

精神医療と患者の<作品>について

精神医療と患者の<作品>との関係について書いてみました。 まず第一に、精神医療は、文学や芸術をその中に含みこむ言説であり営みであったことを示す。これは、特定の精神科医や特定の作家の問題ではなく、精神医療が基本的な枠組みにおいて文学や芸術にい…

精神医療とアーカイブズ 7月17日

7月17日に東大駒場で「精神医療とアーカイブズ」のワークショップがあります。さまざまな形で保存されいる精神医療の史料を若手研究者が読み解く催しです。果敢な読み解きが期待されます。ご来場のほどを! 日時:2015年7月17日(金) 15時~17時頃場所:東…

サミュエル・ガース『薬局』(西山徹編訳)書評

サミュエル・ガース『薬局』を『日本医史学雑誌』61巻(2015), 2号, 218-220. に書評しました。PDFなどは少々お待ちください。多少の変更はありますが、原稿はこちらです。 17世紀後半のロンドンにおける医師と薬剤師の対立をめぐる重要な作品で、英語として…

19世紀の医療は女性の主体性と自己を作り上げたか

Theriot, N. M. (2001). "Negotiating illness: doctors, patients, and families in the nineteenth century." J Hist Behav Sci 37(4): 349-368. 著者は19世紀を中心にして女性と医学の関係について深い洞察を持つ論文を出版している学者で、彼女の議論は…

第一次大戦期フランスにおける電気治療の是非をめぐる論争

Roudebush, M. (2000). "A Patient Fights Back: Neurology in the Court of Public Opinion in France during the First World War." Journal of Contemporary History 35(1): 29-38. 第一次大戦で負傷したフランス兵が治療を試みた医師を殴った事件の裁判…

第一次大戦期フランスの戦争神経症の治療1

Bogousslavsky, J. and L. Tatu (2013). "French neuropsychiatry in the Great War: between moral support and electricity." J Hist Neurosci 22(2): 144-154. 第一次世界大戦期のシェルショックに対する精神神経科の治療法を、フランスを皮切りにヨーロ…

過去の医者がどのように病床日誌を読んだか―昭和10年代の外傷神経症

櫻井図南男・中村康一次「外傷神経症の臨床統計」『臨床と治療』22巻3号(1945), 186-188. 昭和10年1月より昭和18年12月のあいだに九大精神科外来を訪れた外傷神経症患者208名の病床日誌を分析した論文。短いが、当時の医者が必ずしも自分が記入したわけで…

20世紀前半イギリスにおける<スピリチュアル・ヒーリング>をめぐる専門職間の相克と調整

高林陽展「20世紀前半イギリスにおける教会・心理学者・精神科医の相克‐スピリチュアル・ヒーリング問題をめぐって‐」『清泉女子大学キリスト教文化研究所年報』22巻(2014), 58-85. 20世紀前半、特に第一次大戦後のイギリスを中心にして、スピリチュアル・…

書評:ソニア・シャー『人類五〇万年の闘い——マラリア全史』(2015) - 『週刊読書人』より

Academia.edu に、『週刊読書人』に掲載した書評をアップロードしました。ソニア・シャーのマラリアについての書物です。医学はもちろん、歴史や政治学の分析に基づいた素晴らしい書物でした。 Akihito Suzuki | Keio University | Books Reviews in Japanes…

16世紀イタリアの梅毒病院

Arrizabalaga, J., et al. (1997). The great pox : the French disease in Renaissance Europe. New Haven ; London, Yale University Press 昨日の歴史Iの一般教養の授業は、梅毒の歴史を話す回だった。ここしばらく、ヨーロッパ・アフリカとアメリカの間…