Entries from 2007-10-01 to 1 month

『家畜人ヤプー』

先日、二人の若手の研究者たちと話しているときに、どちらも『家畜人ヤプー』を読んでおらず、うち一人はタイトルすら知らなかったので、ちょっと驚いた。沼正三作のSF・SM小説のアングラの古典として名高いこの本は、20世紀医学史の「ウラの教科書」と言っ…

形而上学的ポルノグラフィ

クロソウスキーの『バフォメット』を読み返す。20年くらい前に買った書物が、美しい箱に守られて少しも傷んでいなかったので嬉しかった。さすがペヨトル工房だと感心する。 この記事が、ヤフー・ブログの倫理コードを通過できるかどうか、ちょっと不安。 先…

水界民の歴史

必要があって、川喜田二郎『素朴と文明』(東京:講談社学術文庫、1989)を読む。 日本の文明の歴史は「水界民」の活動が作ってきたものであると主張する本。海・川の地理的な視点の重要性を説き、北方のシベリア・アムール、南方の中国や東南アジアなどと一…

東京湾とコレラ

東京湾とコレラのリサーチの続き。『大正十一年コレラ病流行記事』を読む。以下、私自身の研究上のアイデアが含まれて入ます。 T11年に、東京は184人のコレラ患者(うち死亡は113人)を出した。かつての大流行には程遠いが、T5年以来のコレラの流行である。…

東京湾の歴史

必要があって、東京湾の歴史を調べ始める。文献は、菊地利夫『東京湾史』(東京:大日本図書、1974)東京湾は東は房総半島の洲崎、西は三浦半島の剣ヶ崎の二点を結ぶ線より北の海域を指す。南北80キロ、東西は10キロから30キロで、面積は約1500平方キロであ…

ジフテリア血清と病院の性格転換

未読山の中から、ジフテリア血清の歴史的な役割についての論文を読む。文献はWeindling, Paul, “From Isolation to Therapy: Children’s Hospitals and Diphtheria in fin de siècle Paris, London, Berlin”, in Roger Cooter ed, In the Name of the Child:…

『世界の中心で、愛を叫ぶ』

必要があって、片山恭一『世界の中心で、愛を叫ぶ』を読む。アマゾンの古書で1円で買った。 高校生の女の子(アキ)が白血病で死ぬのを、彼女の恋人の同級生の男の子(朔太郎)が語るという構成の小説。女の子も男の子も、どこにでもいる普通の平凡な高校生…

北里柴三郎はペスト菌の発見者か

未読山の中から、ペスト菌の発見における北里柴三郎の役割を論じた論文を読む。文献は、Howard-Jones, Norman, “Was Shibasaburo Kitasato the Co-Discoverer of the Plague Bacillus?” Perspectives in Biology and Medicine, 16(1973), 292-305. 1894年の…

燻製ハムと聖なる肉体の不滅

この間も取り上げたカンポレージの、肉体の歴史民俗学の書物を読む。文献は、Camporesi, Piero, The Incorruptible Flesh: Bodily Mutation and Mortification in Religion and Folklore, translated by Tania Croft-Murray, Latin texts translated by Hele…

『イワン・イリッチの死』

必要があって、トルストイの短編『イワン・イリッチの死』を読む。色々訳はあるだろうが、岩波文庫版を読んだ。 1886年に出版されたトルストイの晩年の傑作の一つ。英語圏、特にアメリカで医学部の専門科目として定着している「医学と文学」という科目の中で…

『ダ・ヴィンチ・コード』

事情があって(笑)、『ダ・ヴィンチ・コード』を読む。 国際的なベストセラーで映画にもなった作品。キリスト教成立当初の秘密を守って中世以来それを伝えてきた秘密結社。その秘密を知っていたレオナルドが自らの作品に仕掛けた謎。その秘密が暴露されるの…

血清療法の起源

同じ新着雑誌から、ベーリングのジフテリア血清の起源を論じた論文を読む。文献はSimon, Jonathan, “Emil Behring's Medical Culture: From Disinfection to Serotherapy”, Medical History, 51(2007), 201-218. ベーリング (Emil von Behring, 1854-1917)と…

17世紀イタリア医学の「科学の文体」

同じ新着雑誌からマルピーギの科学書の文体の分析を読む。文献は、Meli, Domenico Bertoloni, “Mechanistic Pathology and Therapy in the Medical Assayer of Marcelle Malpighi”, Medical History, 51(2007), 165-180.17世紀後半に顕微鏡による観察を医学…

初期近代科学における出版の意味

目を通すのを忘れていた新着雑誌から、ロバート・ボイルのテキストを題材に、科学の書物を出版することの意味を問い直した論文を読む。文献はKnight, Harriet and Michael Hunter, “Robert Boyle’s Memoirs for the Natural History of Human Blood: Print, …

19世紀ヨーロッパ史

必要があって19世紀ヨーロッパ史の教科書というか入門書を読む。文献は、Blanning, T.C.W., The Short Oxford History of Europe: the Nineteenth Century (Oxford: Oxford University Press, 2000).私は「ヨーロッパ史」という科目をまともに習ったことがな…

南太平洋の麻疹

南太平洋のフィジー諸島からさらに大分離れた辺境のロトゥマ島(Rotuma) における1911 年の麻疹流行を記述した論文を読む。文献は、Corney, B. Glanvill, “A Note on an Epidemic of Measles at Rotumá, 1911”, Proceedings of the Royal Society of Medicine…

ディーテイルズ No.11 正解です!

ディーテイルズ No.11 絵の一部をみて、どの作品か当てるベタなクイズ。 長らく正解を出すのを忘れておりました。 正解は、ラファエル「聖チェチーリア」です。 正解者は先着順で、Miyoko さん、きいちごさんです。 どちらも第一ヒントでの正解です。 すごい…

労働する身体の20世紀

必要があって、20世紀の労働と身体をめぐる深い洞察を短いスペースで大胆に展開した論文を読む。文献は、Roger Cooter and John Pickstone eds., Companion to Medicine in the Twentieth Century (London: Routledge, 2000)の中の、Steve Study, “The Indus…

20世紀の<がん>

目を通すのを忘れていた新着雑誌が、20世紀の<がん>の歴史の特集号。第一人者による面白そうな研究が目白押しだけれども、いまはじっくり読んでいる時間がないので、イントロダクションだけ読む。文献は、Cantor, David, “Introduction: Cancer Control an…

DSM-III

新着雑誌から、DSM-IIIを批判的に論じた論文を読む。文献は、Galatzer-levy, Isaac R. anmd Robert M. Galatzer-Levy, “The Revolution in Pschiatric Diagnosis: Problems at the Foundations”, Perspectives in Biology and Medicine, 50(2007), 161-180. …

『羊たちの沈黙』

必要があって、トム・ハリス『羊たちの沈黙』菊池光訳(新潮文庫)を読む。以下の記事にはネタバレがあります。 ジョディ・フォスターが美人FBI捜査官を演じ、アンソニー・ホプキンスが恐るべき殺人嗜好を持つ天才精神科医ハンニバル・レクターを演じた有名…

労働衛生と環境科学

労働医学・労働衛生学の歴史を研究した書物を読む。文献は、Sellers, Christophre C., Hazards of the Job: From Industrial Disease to Environmental Science (Chapell Hill: The University of North Carolina Press, 1997) 著者は医学とアメリカ史で合わ…

鉛中毒の歴史

20世紀アメリカの鉛中毒対策の歴史の研究書に目を通す。文献は、Warren, Christian, Brush with Death: a Social History of Lead Poisoning (Baltimore: Johns Hopkins University Press, 2000). イントロダクションの他は拾い読みしかできなかったけれども…

文明の病としての結核

未読山の中から、結核の死亡率の変動のパタンが、20世紀の帝国主義の文脈の中でどのように解釈されたかを論じた論文を読む。文献は、Harrison, Mark and Michael Worboys, “A Disease of Civilization: Tuberculosis in Britain, Africa and India, 1900-193…

文章読本

必要があって、文章読本ものを何冊か読む。谷崎潤一郎の『文章読本』と三島由紀夫の『文章読本』、それから中村明の『悪文-裏返し文章読本』。 このブログの読者は先刻承知のことだと思うけれども、私は文章が下手だ。何度も読まないと構文が分らない悪文の…

沢尻エリカ

今日は無駄話を。芸能人の記事を書くのは、たぶんこれが最初で最後だと思う。 私は週刊誌や雑誌の車内吊り広告を熱心に読む。そうすると、よく見出しになっているタレントや有名人の名前が、まず文字列として記憶に残る。この状態を、誰それを「知っている」…

日本の人口の一万年

いただいた書物を読む。文献は、鬼頭宏『図説人口で見る日本史』(東京:PHP研究所、2007)。 著者の鬼頭先生は、歴史人口学の第一人者で、一緒に仕事をさせていただいたことが何度かある。堅実な実証と洒脱なエスプリを両立させた計量データの処理の仕方や…

20世紀フランスの病院

20世紀フランスにおける病院の性格転換についての論文を読む。文献は、Smith, Timothy G., “The Social Transformation of Hospitals and the Rise of Medical Insurance in France, 1914-1943”, Historical Journal, 41(1998), 1055-1087. 西欧の病院という…

中世のホスピタル

未読山の中から、中世の「ホスピタル」を論じて深い思索を展開した論文を読む。文献は、Horden, Peregrine, “A Discipline of Relevance: the Historiography of the Later Medieval Hospital”, Social History of Medicine, 1(1988), 359-374. 前にも何度か…

ディーテイルズ No.10 正解

ディーテイルズ No.10 正解は、フレデリック・レイトン『水浴びするプシュケー』です 正解は先着順で、きいちごさんと、ひとみどんさん。 おめでとうございます! きいちごさんは、なんと第一ヒントです。 イオニア式の柱頭から、プシュケーの透明感があるヌ…