Entries from 2010-10-01 to 1 month

『明治事物起源』

『明治事物起源』には「病医部」という項目があって、解剖の始め、女医の始め、義足の始め、コンドームの始めなど、病気の医療の歴史について、明治期の「はじめ」は何かという豆知識がつめこまれている。ちなみに、コンドームは、「防瘡袋」と呼ばれていて…

『香水辞典』

必要はなかったけれども、『香水辞典』を買って眺める。文献は、Luca Turin and Tania Sanchez, Perfumes: the A-Z Guide (London: Penguin Books, 2009)著者のルカ・チュリンは、かつてはロンドン大学の神経生理学者で、第一線の嗅覚の研究をしていたが、い…

『江戸期文化人の死因』

必要があって、江戸期の文化人の遡及診断集を読む。文献は、杉浦守邦『江戸期文化人の死因』(京都:思文閣、2008)著者は、日本の遡及診断のジャンルの中では多産で、『カルテ拝見 武将の死因』『カルテ拝見 文人の死因』などの、同じ方法と視点の著作があ…

昭和東北の大凶作

必要があって、昭和東北の大凶作を紹介した書物に目を通す。文献は、山下文男『昭和東北大凶作―娘身売りと欠食児童』(秋田:無明舎出版、2001)1931年に農村のまゆ価格が半値に下落しコメの価格も暴落した。農家の収入は激減し、農村恐慌となった。生活苦に…

『旅行術』

必要があって、優生学で有名なフランシス・ゴルトンの『旅行術』を読む。文献は、Galton, Francis, The Art of Travel (1872), or, Shifts and Contriviances Available in Wild Countries (London: Phoenix Press, 2000).ゴルトンはイギリスの学者の典型で…

『フィガロの結婚』

新国立劇場で『フィガロの結婚』を観た。ミヒャエル・ギュットラー指揮、アンドレアス・ホモキ演出。メロディもストーリーも快活なオペラの中に、アンシャン・レジームの身分制と性のゆらぎが込められている傑作。『フィガロ』という歌劇についてコメントさ…

病原体の進化と現代の公衆衛生

未読山の中から、著名な生命学者のレダーバーグが書いた論文を読む。文献は、Lederberg, Joshua, “Infectious Disease as an Evolutionary Paradigm”, Emerging Infectious Disease, 3(1997), 417-423.病原体の圧倒的なスピードの進化に対して、人間の進化の…

代替療法

未読山の中から出てきた1980年代のロンドンで代替療法を調査した論文が出てきたので、喜んで読む。80年代は、イギリスでは、代替療法が急速に成長していた時期で、この研究は、たぶん、大規模な代替療法調査の「はしり」なのかなと思うけれども、小規模なが…

医学史におけるグランド・ナラティヴ

必要があって、ポール・スター論を読む。文献は、Warner, John Harley, “Grand Narrative and Its Discontents: Medical History and the Social Transformation of American Medicine”, Journal of Health Politics, Policy and Law, 29(2004), 757-780.ポ…

石川・富山のコレラ

いただいた論文を読む。文献は、二谷智子「1879年コレラ流行時の有力船主による防疫活動」『社会経済史学』75-3(2009年9月)313-336.石川県の有力地主で船主だった宮林家の記録を通じて、1879年(明治12年)のコレラの流行への対策に光を当てた優れた論文。明…

ボディ・エコノミック

必要があって、19世紀の政治経済学の文化分析研究を読む。文献は、Gallagher, Catherine, The Body Economic: Life, Death, and Sensation in Political Economy and the Victorian Novel (Princeton: Princeton University Press, 2006).著者は基本は英文学…

フレイバー類義語辞典

書評で見かけてつい誘われて「フレイバー類義語辞典」という面白いレファレンスを買う。文献は、Segnit, Niki, The Flavour Thesaurus: Parings, Recipes and Ideas for the Creative Cook (London: Bloomsbury, 2010)まず、全体としては「炒ったもの」「お…

ケストナー『家庭薬局』

今日は事情があって、簡単な記事です。エーリッヒ・ケストナー『家庭薬局』高橋健二訳(東京:かど創房、1983)を読む。このような症状の時には、このような薬を飲みなさい、という「家庭の医学」のフォーマットにあわせて、「内面生活の治療」に役立つ詩を集…

ヘルムホルツのサイエンス・リレーション

必要があって、19世紀の医者にしてポリマスのヘルムホルツの講演集を読む。文献は、Helmholtz, Herman von, Science and Culture: Popular and Philosophical Essays, edited with an introduction by David Cahan (Chicago: University of Chicago Press, 1…

ベートーヴェンのピアノ・ソナタ集

今日は無駄話。ベートーヴェンのピアノ・ソナタ集を、少しずつ聴いている。Penguinの『クラシック音楽レコード・ガイド』や、古いグラモフォンのガイドやを見て、ヴィルヘルム・ケンプとヴィルヘルム・バックハウスを買った。全曲だからそれぞれ8枚ずつある…

お金が医療を支配する

必要があって、「20世紀の後半の医療では、お金が医者の心を支配している」というトーンの論文を読む。Churchill, Larry R., “The Hegemony of Money: Commercialization and Professionalism in American Medicine”, Quarterly of Healthcare Ethics, 16(20…

カンギレム『生命科学の歴史』

重要な書物を読み落としていたことに気づいて読む。文献は、ジョルジュ・カンギレム『生命科学の歴史―イデオロギーと合理性』杉山吉弘訳(東京:法政大学出版局、2006)私にとっては、カンギレムの洞察というのは、フーコーのような思考の飛躍をインスパイア…

満州国の精神医学

新着雑誌から、満州国の精神医学について分析した論文を読む。文献は、Matsumura, Janice, “Eugenics, Environment, and Acclimatizing to Manchukuo: Psychiatric Studies of Japanese Colonists”, 『日本医史学雑誌』56(2010), No.3, 329-350.新しい帝国主…

スロー・リーディング

たまたま書評で見かけた本を読んでみた。 「スロー・リーディング」についての本である。Miedema, John, Slow Reading (Duluth, Minnesota: Litwin Books, 2008) 著者は、図書館学・情報学を学んで、この本を書いたという。伝統的な形でつくられた書物を読む…

明治の村の生活

必要があって、明治期から日記をはじめた神奈川群高座郡橋本村(m22より相原村)の地主の日記を紹介した書物を読む。文献は、小木新造『ある明治人の生活史-相沢菊太郎の七十八年間の記録』(東京:中公新書、1983)少し古い本だから、著者はもちろん医療や…

ADHD/リタリンの誕生

必要があって、ADHD/リタリンの誕生について論じた論文を読む。現代の論争では忘れられた歴史的な視点を発掘した、非常に優れた論文だった。文献は、Singh, Ilina, “Bad Boys, Good Mothers, and the ‘Miracle’ of Ritalin”, Science in Context, 15(2002), …

アーカイヴ論

同じ雑誌から、博物館とアーカイヴについての論文に目を通す。文献は、Waterton, Claire, “Experimenting with the Archive: STS-ers as Analysts and Co-constructors of Databases and Other Archival Forms”, Science, Technology, & Human Value, 35(201…

バイオパワー論

事情があってSTSの国際学会に入会して、学会誌 Science Technology and Human Values が送られてきたから、論文を眺めてみた。abstract からして、これが悪名高い STSの文体と思考法か、と思わせるものもあったけれども、何点か面白い議論もあったし、その中…

スカーレット・ヨハンソン

タイトルからもわかるように、飛行機の中で観た映画について無駄話。ドイツへの出張でルフトハンザに乗った。新型のピカピカの飛行機でスペースも広くて快適だった。音楽もクラシックが充実していて、ヘッドフォンもよかった。Yuja Wang という初めて名前を…

ボーデン湖に行った

外国出張で空いた時間を利用して、ドイツ、スイス、オーストリアの国境にあるボーデン湖にいった。遊覧船代わりにフェリーに乗った。三つの国の国境だけど、警備艇に衝突してくる漁船の船長もいない、平和な湖だった。フリードリッヒスハーフェンという駅の…

水上勉『一休』

必要があって、まだ学生のころに、友人に大いに勧められた水上勉の『一休』を読む。中公文庫に入っている。一休が後小松天皇の落胤であったという説にふれ、父というものがずっと不在であったことを論じる。そして母と二人で幼少期を過ごしたことから母の思…

『人狼伝説』

必要があって、ヨーロッパの人狼伝説を採集した19世紀の古典を読む。もとは 1865年に出版されたThe book of werewolves というタイトル。これは翻訳されていて、セイバイン・ヘアリング=グールド『人狼伝説 変身と人食いの迷信について』ウェルズ恵子・清水…

「北守将軍と三人の医者」「よく効く薬とえらい薬」

人に勧められて、宮沢賢治の「北守将軍と三人の医者」「よく効く薬とえらい薬」を読む。それぞれ、ちくま文庫の全集の8巻210-219ページ、5巻221-8ページ。「北守将軍」は不思議な雰囲気を持つ話。北方の砂漠の辺境で30年も戦って過ごした「北守将軍」が町に…

免疫学・生態学と「自己」というイディオム

必要があって、免疫学の歴史における「自己」というイディオムを導入したマクファーレン=バーネットについての研究論文をチェックする。文献は、Crist, Eileen and Alfred I. Tauber, “Selfhood, Immunity, and the Biological Imagination: the Thought of…

精神病者監護法・精神病院法の法制史

必要があって、戦前日本の精神医療に法的構造を与えた二つの法律である精神病者監護法(1900)、精神病院法(1919)の制定と議論をまとめた論文をチェックする。赤倉貴子「明治33年『精神病者監護法』の成立」『六甲台論集 法学政治学編 神戸大学大学院法学…