代替療法

未読山の中から出てきた1980年代のロンドンで代替療法を調査した論文が出てきたので、喜んで読む。80年代は、イギリスでは、代替療法が急速に成長していた時期で、この研究は、たぶん、大規模な代替療法調査の「はしり」なのかなと思うけれども、小規模ながらしっかりした調査に基いた優れた論文だった。Murray, Joanna and Simon Shepherd, “Alternative or Additional Medicine? A New Dilemma for the Doctor”, Journal of the Royal College of General Practitioners, 38(1988), 511-514.

代替療法の利用は、鮮明な年齢差を持っていて、70代と30代を較べると圧倒的に30代が多く(1:25)、女性のほうがかなり多い(17:8)。女性についていうと、妊娠と子育てが代替に魅かれるきっかけとなる。そこには、正統を拒絶している患者はおらず、みな、併用をしている。(なるほど、だから、「代替」という用語が適していないんだ。)よく分からなくて「深刻な」病気のときには、代替に行く前に正統で診断を受ける。侵襲的な療法を正統で受けたこと、薬の副作用についての不安が、代替に魅かれはじめた理由だという。始めて見ると、「人間的な要因」「わたし個人があんなに注目されたことはこれまでなかった」「正統は個人を扱ってくれない」という印象をもつ。金儲けの代替もいることも指摘されている。

生命にかかわらない軽い疾病については代替にまかせ、正統の人的・経済的負担を軽減しようというアイデアは、現状には合わない。(ある患者が、同じ病気について、代替と正統の両方にかかっている。)両者の連絡はあまりうまくいっていないが、イギリスのGPの多くは、代替を学んだ、あるいは学んでみたいと思っている。病気を1) 構造的なもので、有効な治療を正統も持っている、2) 機能的なもので、正統も有効な治療はない、3) 生き方の問題というか、もともと脆弱な人格・性格を持っているもの、というように分けると、このどの問題についても、代替にかかっている。

しばらく前に、学術会議がホメオパシーは荒唐無稽であるという発表をしてから、ネット上にはホメオパシーについての色々な意見が飛んでいる。悲しいことに、その意見の多くが、正統の人たちはホメオパシーは効かないことをあげつらって彼らを小馬鹿にし、ホメオパシー擁護の人たちは正統の欠陥をあげつらうという構図になっていて、どちらにも辟易している。正直、日本の正統医療と代替医療の双方が、医療を社会的な現象として考えるリテラシーを欠いているのだろうなと思うが、これは、私の情報ネットワークの問題もあるのだろう。この20年以上も前のイギリスの調査のような情報でいいですから、日本の代替医療・ホメオパシーについて、情報があれば教えて欲しいのです。