医学史におけるグランド・ナラティヴ

必要があって、ポール・スター論を読む。文献は、Warner, John Harley, “Grand Narrative and Its Discontents: Medical History and the Social Transformation of American Medicine”, Journal of Health Politics, Policy and Law, 29(2004), 757-780.

ポール・スターが書いた Social Transformation of American Medicine は、アメリカ医療の変遷を描いた通史である。この論文は、アメリカの医学史研究を代表する研究者が、スターの通史と、医学史にとってその書物が持つ複雑で微妙な意味を論じたものである。より広い文脈では、新しい医学史、特に医学の社会史にとって、「通史」をどのように書けばいいのか、という問題を論じている。

スターの書物は、アメリカの医学史学会にとって不思議な書物である。ウォーナーが言うように、この書物は、医学史家たちの間の評価は低く、それ以外では評価が高い。医学史家たちの評価が低いのは、この医学「社会学者」が書いた書物が、医療の「歴史」の通史の決定版として扱われていることに対する嫉妬というものが確かに存在する。しかし、スターの著作は、アメリカとヨーロッパの医学史研究の(当時の)成果も視点も取りこんでいない。しかし、それは、新しいGrand Narrative であり、医学の社会史の研究者たちが、スターのGrand Narrative の無視して、その細部の揚げ足取りにとどまり、スターの挑戦を「受けて立っていない」のは、スター/医療社会学にとっても医学史にとっても不毛である。

思うところがたくさんあった。私の年齢層の研究者はもとより、若い研究者にとっても必読の文献だろう。