イギリスでの伝統療法と民間療法の合体(笑)

Allen, David Elliston and Gabrielle Hatfield. Medicinal Plants in Folk Tradition : An Ethnobotany of Britain &  Ireland. Timber, 2004.
 
薬の話。伝統療法 traditional medicine と民間療法 folk medicine という二つの概念がよく分からない。伝統療法は、現代の実験でその効力が認められておらず、それぞれの文化の医療で長期間はぐくまれた薬物である。中国医学やアユールヴェーダがその代表である。ガレノス医学なども伝統療法に入る。総ての療法が、現代医学か伝統療法の二つに分けられればいい。しかし、ガレノス医学や中国医学の歴史の中で、テキストに書いていないものがある。代表的なものは葛根湯であり、これは中国医学のメジャーなテキストには入っていないが、人々は使っている。その意味で、これを民間療法に入れるべきである。人類学者が得意な呪術的なものも、民間療法に入れていい。
 
呪術と葛根湯が合体したものは民間療法に入れてもいい。一方、呪術と大黄(伝統療法で認められている)ものであれば、民間に入れてもいいし、伝統療法に入れてもいい。呪術とキニーネが結びついたものならば、キニーネは現代医学で認められているから、民間療法でも現代医薬でもある。これをキンチョーナという植物の皮にすると、民間療法か伝統療法になる。うううむ。
 
この本は、ガレノスやディオスコリデスといった伝統医学の正統派と、その後に人々が地方で行われている植物などの記録をあわせて、Folk Tradition にしたという構成になっている。16世紀から20世紀後半の、どこそこでこのような療法がおこなわれているという論文を数多く収集し、それの有効性を判断したものである。伝統と民間が合体すれば、それらの区別という面倒な仕事が入らないという理由で、Folk Tradition とする。素晴らしい(笑)。医学と植物学と人類学と哲学と歴史学の合体と言ってよい。