精神病者監護法・精神病院法の法制史

必要があって、戦前日本の精神医療に法的構造を与えた二つの法律である精神病者監護法(1900)、精神病院法(1919)の制定と議論をまとめた論文をチェックする。赤倉貴子「明治33年『精神病者監護法』の成立」『六甲台論集 法学政治学編 神戸大学大学院法学研究会』47(2001), no.1, 1-68. 赤倉貴子「明治33年『精神病者監護法』の問題点と新法成立に向けての活動―大正8年『精神病院法』設立の背景―」『六甲台論集 法学政治学編 神戸大学大学院法学研究会』48(2001), no.2, 1-38. 赤倉貴子「大正八年『精神病院法』の成立」『神戸法学雑誌』52.3(2002), 51-120.

戦前の精神医療の法制史についてはもっとも詳しく、もっともバランスが取れている論文で、引用なども法学の学徒らしく正確を期していて(確かめたわけではないけれども)、信頼できる論文である。細かい発見・洞察もたくさんちりばめられていて、たとえば精神病院法を作るときに、代用精神病院の規定はもともとなかったけれども、あとから医師会から上がってきただとか、明治初期の警察がだした一連の法令においては、精神病患者(当時は癲狂人とか瘋癲人と言われていた)を保護し介護する傾向を持っていたという事実が指摘されている。どれも素晴らしい論文だけれども、ただ、議論するときの敵の作りかたを間違えたように思う。「これまでの精神医療の歴史家たちが言ってきたほど、精神病者監護法は悪いわけではない」ということを論証するという、手ごたえがないところに話を落とそうとしている。リサーチをもっと生かす形の立論もあったような気がするんだけれども。