人に勧められて、宮沢賢治の「北守将軍と三人の医者」「よく効く薬とえらい薬」を読む。それぞれ、ちくま文庫の全集の8巻210-219ページ、5巻221-8ページ。
「北守将軍」は不思議な雰囲気を持つ話。北方の砂漠の辺境で30年も戦って過ごした「北守将軍」が町に帰ってきて、30年の間にだめになってしまったからだと頭を三人兄弟の医者に直してもらうという話。軍隊は夏の湿気が起こした脚気で兵を失うこと、最初の医者のところで将軍が狐にばかされたというと心理検査のために百と百を足すといくらになるか、二百と二百では、などと聞かれるという断片を心にとめる。
「よく効く薬」は正直者と欲深者の話。正直者の清三の母は病気で、清三はばらの実の薬を森の中の空き地に採りに行く。つぐみなどの鳥たちは好意をもって迎える。なかなかばらの実をかごいっぱいに採れないが、あるひとつぶの実を取って口に含むと、唇がピリッとしてからだがブルブルふるえ、何かきれいな流れが頭から手から足まで、すっかり洗ってしまったよう、何ともいえずすがすがしい気分になる。空まではっきり青くなり、草の下の小さな苔まではっきり見えるように思う。それに、今まで聞こえなかったかすかな音もみんなはっきりわかり、いろいろの木のいろいろな匂いが実にいちいち手にとるようである。おどろいて手に持ったその一粒のばらの実をみると、それは雨のしずくのようにきれいに光ってすきとおっている。その実を家にもちかえり、水にいれて母親に飲ませると、すっかり元気になる。
その話を聞いた欲深者の大三がいた。これは贋金をつくって金持ちになった太っちょの男で、清三の薬が欲しいと思う。それは、大三が、頭がぼんやりし、息がはあはあすると思っていたからだった。医者たちは、それは食べすぎで、食べ物を減らしたらよくなるというが、大三は、それは何かが足りないせいだという。それを医者たちに説明するときに、ビタミンと脚気の例を出す。昔は米に毒があるから脚気になる、だから米を食べるなと言われたが、今では、ビタミンというものが足りないからだとわかっていると医者に理屈を言う。そのビタミンにあたるものが清三の薬だと思い込んで、大三も森にばらの実を探しに行く。大三は金持ちだから人を百人つれていく。鳥たちは歓迎しない。大三は悪態をつきながらばらの実を十貫ほどとって、それを贋金つくりの炉にかけて、るつぼに残ったすきとおったものを飲むと、それはショウコウという毒で、大三はあっという間に死んでしまう。