中世のホスピタル

 未読山の中から、中世の「ホスピタル」を論じて深い思索を展開した論文を読む。文献は、Horden, Peregrine, “A Discipline of Relevance: the Historiography of the Later Medieval Hospital”, Social History of Medicine, 1(1988), 359-374. 前にも何度か書いていると思うけれども、私はこの論文の著者のファンで、彼の論文は喜んで読むことにしている。

 ホーデンの論文というのはどれもそうだけれども、豊かな洞察が詰まっている。病院の歴史というのは医学史のエスタブリッシュされたジャンルの一つであるが、<病院>をどう定義するのかと開き直って聞かれると、実は意外に難しい。ヨーロッパの「ホスピタル」というのは、必ずしも病人だけでなく、<困っている人に慈善に寝食を与える慈善の空間>というくらいの意味である。この空間が、近代になって「医学化」されたと教えるけれども、この医学化という概念も、かなり難しい。医学の学位なり資格なりを持っている人間が雇われるようになることを「医学化」というのは当たり前である。しかし、医者が提供するものだけが医療なのかとか、ケアとキュアは対立する二元論なのかとか、言われて見たら私がまともに考えたことがない洞察がたくさんあった。