ヒルシュフェルトの性科学研究所とナチスによるその破壊

The Institute of Sexology (London: Wellcome Collection, 2015).

 

ロンドンのウェルカム医学史図書館(旧称)で The Institute of Sexology というタイトルの展示がされている。このタイトルは、ベルリンの医師で性科学者のマグヌス・ヒルシュフェルト (Magnus Hirschfeldt, 1868-1935) が1919年にベルリンに設立した研究所の名称を引いたものである。ヒルシュフェルトは、性行動と性志向に関する少数派の志向に理解と共感を示し、同性愛者や現在の言葉で言うところのトランスジェンダーなどはこぞって彼の研究所を訪れていた。女性への性転換の外科的な手術を受けた「男性」 もいる。ワイマール共和国の時代には、ヒルシュフェルトの研究所はヨーロッパの性の多様性の重要な拠点であった。しかし、1933年にナチスが政権を握ると、変質と衰退 (degeneration)の原因と象徴と捉えられ、若者の暴動を焚きつけてヒルシュフェルトの研究所を襲わせ、その10,000冊の貴重な文献のコレクションを奪って焚書した。ヒルシュフェルトがユダヤ人であったことも関係しているだろう。

 

このヒルシュフェルトの事例を含めて、クラフト=エビング、ストープス、キンゼイ、マーガレット・ミードなど、精神医学、避妊、文化人類学など、さまざまな文脈における20世紀の性科学の発展について、豊かな画像資料を交えながら解説した展覧会のカタログである。とりあえず私たちにとっては必携の本である。展覧会は2015年の9月20日まで。サイトは以下の通り。写真は、クラフト=エビングに送られた女装趣味 / トランスジェンダーの男性による楽しいセルフ・ポートレイト(今風にはコスプレというのだろうか)と、ヒルシュフェルトの研究所が破壊され本が焚書されるありさまを写したもの。

 

http://wellcomecollection.org/exhibitions/institute-sexology

 

 

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