『セイチェント』は古楽のイヴェント。ロンドン大学・ゴールドスミス・コレッジで教えておられる松本直美先生が軸になって、古楽についてレクチャー、コンサート、レッスン、セミナーを織り交ぜて3時間ほどのプログラムになっている。東京と大阪で提供され、それぞれ午前の部と午後の部に分かれて別のプログラムをするから、3時間ずつ4つのプログラムを提供する大がかりな企画である。光栄なことに松本先生から招待券を頂いたので、実佳と二人で東京の午後の部にお伺いした。
私はそもそも音楽をあまり聴かず、その中でも古楽にはくらいが、それでも松本先生を中心としたチームのイヴェントは非常に面白かった。松本先生はもともと音楽史の先生でおられるので、ある作品とその演奏を素材にして学識と洞察を織り込みながら、それを面白いイヴェントにされるのが非常に上手である。たとえば、私たちが聴いた会では、モンテヴェルディが曲をつけた歌の歌詞を取り上げたものであった。元の詩の押韻は abba という形だったが、モンテヴェルディはその配列をababと変えたうえで、それぞれの行に曲をつけた。 その結果、a は明るく弾けるように歌い、歌詞も溌剌とした感じとなる。bはそれと対照的に、暗い漢字をたたえて歌詞も延ばして歌うようになる。そのように二つの違う明暗のコントラスト、松本先生のいう「キアロスクーロ」を強調するべき箇所ということになる。歴史学者が演奏に方向を与える一つの方法をレッスンで見させていただいた。
それ以外にも楽しい話がたくさん。音楽における「インターテクスチュアリティ」の話や、17世紀のオペラ『カリスト』はゼウスが女神ダイアナに姿を変えて、ダイアナに憧れるニンフのカリストと愛を交わすという話なので、17世紀のレズビアン・オペラと言われているとか、そういったエロチックでトレンディーな話も、さらりとされていた。大阪での公演は7月25日の土曜日。案内はこちらから。