必要があってダストンとパークの驚異についての名著を読み直す。文献はDuston, Lorraine and Katharine Park, Wonders and the Order of Nature 1150-1750 (New York: Zone Books, 1998)。
必要だったところは、古代から中世にかけてのヨーロッパにおいては、怪物に二つの類型を考えることができるという部分。ひとつはプリニウスの博物誌や地誌・旅行記などで報告された怪物たちである。犬の頭をもつもの、頭がなくて眼と口が胸についているもの、片足だけのもの、足を天に向けているものなどなど、想像力の限りをつくした怪物たちが辺境や異国に住んでいる。彼らはひとつの種族であり、生殖をして普通の生き物のように増えることができる。野蛮なものたちもいるが、文明化された社会を営んでいるものもいる。スキュティアの犬人間は、ヨーロッパ人と同じように袋に何かをつめて取引をしている。彼らとヨーロッパは地理的な空間で隔てられ、その空間が想像力の自由を許すので、その世界の住民は異形となる。基本、現代のわれわれにとっての「宇宙人」にあたるものである。
もうひとつの類型は、われわれの生活のど真ん中にやってくる怪物であって、畸形出産といえる。例えば二つの体が結合した子供だとか、頭が二つついているだとか、そのような重篤な障害である。これは、個としてユニークな現象であり、また、まとまって社会を営んでいるわけではない。前の異国の怪物にとって重要だったのは空間的な距離であるが、このタイプの怪物にとって重要なのは時間性である。これらは、近い将来における神の罰を示すものであり、われわれが破滅しないためには悔い改める最後の機会であること告げる神のメッセージである。
画像は同書より。14世紀の世界地図よりアフリカの辺境に住む怪物たちと、文明を営むスキュティアの犬人間、そして14世紀のフィレンツェにあらわれた畸形出産のレリーフ(教会に掲げられた)。この畸形出産は、ペトラルカが子供のときにその絵を見た記録がある。