Kennedy, M. (2014). ""Let me die in your house": cardiac distress and sympathy in nineteenth-century British medicine." Lit Med 32(1): 105-132.
Kennedy, M. (2012). "Modernist autobiography, hysterical narrative, and the unnavigable river: the case of Freud and H.D." Lit Med 30(2): 241-275.
先日と同じ著者が書いた、19世紀の心臓疾患に関する医学言説の分析。心臓疾患についての医者の論文や書物には一つの特徴があり、romantic な特徴を持っているという。ここでロマンスというのは、いわゆるロマン派のことではなく、リアリズムの文学と対比されるジャンルである、中世騎士物語をもとにした空想・冒険物語である。19世紀であると、ゴシック小説やセンセーション・ノヴェルあるいはSFのはしりのようなものも含まれる。このロマンスの特徴は、誇張されたという意味でのセンセーショナリズム、患者のペイソスとメランコリーを強調するという意味でのセンチメンタリズム、そして医師または読者にそれに応えるような感情を要求するという意味での空想された経験である。これらの特徴は、通常の医学の言説の中では異端であり、客観性と観察性が重んじられる文体では危険視され拒絶されるが、<心臓疾患についての言説では特殊的にこのような文体がよく使われていた>(!!!) その理由は、やはり心臓は生命の基盤と考えられていた臓器であること、心臓に関する疾病、たとえば狭心症などには、特別に劇的な記述の要素が必要であったからである。
もう一点はモダニズムの自伝の形成の分析。テキストはフロイトの症例ドーラ。それはもちろんドーラの伝記・自伝であると同時に、医者の自伝の要素ももっている。医者は、特にフロイトは、自分の理論を作り上げるためには症例が与えてくれるデータを必要としているからである。特にフロイトは症例を自分自身の理論的な発展の目標に使う傾向が非常に大きく、フロイトが描いた症例は、患者と医者の双方がある関係で共存する二つの伝記を融合したものになる。そして、かつての直線的で有機的な伝記のスタイルを解体して、複数の声が常に入れ代わり立ち代わりして出て来るような物語になる。素晴らしい論文。大学院の授業で読もうと思う。