第二次大戦時の米軍将校の精神疾患

Evans, Harrison S., and Harold Ziprick, “Minor Psychiatric Reactions in Officers”, War Medicine, vol.8, no.3 (1945), 137-142.
将校における軽度の精神病反応を論じた論文。戦線や時期などは明記していない。
診断について。Situation reaction や adult maladjustment などの診断が最近用いられている。これらは「神経症」に較べてスティグマが低いので患者にストレスを掛けないことは事実であるが、精神科医は自らが用いる診断には自信を持ってそれを貫き通し(ヒヤヒヤ)、患者の虚栄心や批判を避けるために他の診断を用いるべきではない。

力動的な解釈の羅列で、患者が子供の頃から権威に対してどのような態度を取ってきたか、権威に対してどのように自己を定立したか、ということが強調されている。そのため、良きにつけ悪しきにつけ、患者から聞いた話というのは力動的な人生のミニ・バイオグラフィーになっている。三人兄弟の末っ子で小さい頃に体が弱かったから母親に溺愛・過保護にされて父親は距離感がある厳しい存在であったから、力と権力を求めて高校ではスポーツでスターになって軍隊に入ったが、そこで上官に対して問題が発生した・・・という類の症例報告が続く。そういった説明が当たっているかどうかには別として、ここで目を瞠らねばならないのは、軍隊における生活の構造、すなわちある組織の中で、命令に服し、権限を振るい、達成感を感じたりする個人的な人生のゴールの中で当たり前のように語られていることである。日本の軍医においては、天皇や国家のような個人を超えた何かに身をささげることを外せなかったような気もするが、読み始めた櫻井図南男においては、天皇は大きくなく、国家のために身をささげるという気分だったと書いている。