病気の歴史のレファレンス

 今回はレファレンスの紹介である。使い方によっては、ものすごく役に立つ疾病史のレファレンスである。

The Cambridge World History of Human Diseases (1993)は、あちこちでくどいほど紹介したから、関係者で知らない人はいないと思う。この不可欠のレファレンスの中で一番使える部分だけを切り離してペーパーバックにした Cambridge Historical Dictionary of Diseases (2003)も知っている人が多いだろう。意外に知られていないのが – というか、私が知らなかっただけかもしれないが – Mary Ellen Snodgrass というインディ系の歴史家が編集した World Epidemics というレファレンスである。

 病気ごとの文献目録だとか、時代ごとの文献目録だとか、色々と便利な付録もついているが、このレファレンスの中心は、紀元前150万年から2003年の8月まで、世界中で起きた流行病をとにかく時代順に網羅した部分(300ページ以上)である。例えば1867年のところをみると、ロンドンのチャリング・クロス病院での産褥熱の流行、ペルーのリマの黄熱病、中央ヨーロッパのコレラ、アリゾナでマラリアの流行、初期:パラグアイ戦争での兵士の死亡、2月:オーストラリアでの麻疹、4月:インドのコレラ、5月:カスター将軍の軍隊が壊血病とコレラに苦しむ、7月:テキサスでの黄熱病・・・といった具合に、とにかく世界のどこかでの流行病についての情報が、簡単な説明とともに並んでいる。当然漏れもあるだろうし、偏りもあるだろう。1894年の香港のペストを、「江戸の内科医で、後に東大教授で伝染病研究所の所長になった青山胤通が観察した」という記述を読むと、他のエントリーがどの程度信頼できるか(笑)、よくわかる。

 そういうことに気をつけて使うと、このレファレンスはとても役に立つだろう。全てのエントリーに出典を付記してくれれば、とても助かったのだけれども・・・(笑)

文献は、Snodgrass, Mary Ellen, World Epidemics: A Cultural Chronology of Disease from Prehistory to the Era of Sars (Jefferson, North Caroline: McFarland & Company, 2003).