『匂い立つ官能の都』

出張の移動中に、だいぶ前にどなたかのブログで紹介されていた小説を読む。文献は、ラディカ・ジャ『匂い立つ官能の都』(東京:扶桑社セレクト、2005)

インドの女性作家の国際的なヒット作。アフリカのナイロビで生まれたインド系の若い女性、シリーラ・パテル(「リーラ」)が、父をなくし、母に捨てられて、パリの叔母に引き取られるところから話は始まる。リーラはすぐに叔母の家から逃げ出し、インド風の美貌に恵まれた彼女は、すぐに人目を引き、パリのアーチストや有名モデル、ジャーナリスト、グルメスーパーのオーナーなどのハイ・ソサイエティの間で、ボーイフレンドを取り替えながら暮らすことになる。この生活は、彼女が知っているアフリカ・インドの文化と、パリの文化の間にある亀裂に掛けられた危うい橋の上で踊り続けるようなものだった。文化の亀裂は、時として彼女を残酷に拒み、逆にエキソティシズムを道具にして束の間の脚光を浴びることも可能にするものだった。

この移民ゆえの不安定を漂うような感覚と深い関係にあるのが、リーラの匂いに対する鋭い感覚であった。インドのターメリック、焼きたてのバゲット、高級ワインの複雑な香りの重層、一緒に寝た男の匂い、そして折に触れて彼女の生きる意志を破壊する、自分から立ち上る腐臭。これらの匂いがリーラの廻りで織り成されて、それがそのまま現代のパリという街の物語になっている。

きっと、もっと知的な読み方が色々とあるだろうのけど、すごく原始的なレヴェルでキャッチコピー風に言うと(笑)、この書物を読むと自分の周りの匂いが10倍楽しくなる。出張先は海抜2000メートルの高地にある牧場だったので、そこの動物の匂い、川の匂い、露にぬれた草の匂い、暖炉で燃える木の匂いなどなどが、すごく楽しかった。

追記 牧場から街に戻ってネットにつなげる環境に来てわかったのですが、私が最初にこの本を知ったのは、「壊れかけたメモリーの外部記憶」さんの記事でした。それから、「似たような記事」検索で知ったのですが、「りぼんの読書ノート」さんも取り上げていらっしゃいました。