移民とコレラ

必要があって、フランスの移民とコレラについての記述をもう一度読む。文献は、Aisenberg, Andrew R., Contagion: Disease, Government, and the “Social Question” in Nineteenth-Century France (Stanford: Stanford University Press, 1999)の第四章 “The foyer of disease”.

19世紀の末のフランスの衛生学者たちは、当時現れていた「社会学」の影響もあって、感染症を「個人の外側にある社会的な実態」の中で理解することを目指していた。コレラの発見が早くなり、都市のさまざまな箇所で同時に、しかし一見すると相互に無関係な症例が発生するという事態は、衛生学者たちをして、都市の中での感染症の伝播に注目せしめた。パスツールたちにとっては感染症の「発生」が問題であったが(彼の科学的名声を確立したのは自然発生の否定である)、ここでは流行の成長と広がりが問題になるのである。

それとの関係が、この本では実はよくわからないのだが、同じ時期に現れるのが、「移民」への衛生学的な注目である。定住する「家」を持たず、家庭が与えてくれる道徳の恩恵に浴さず、居住する社会にも組み込まれていない匿名的な移民者たちは、それ自体として感染症のリスクを増やす。