『クワイエット・ルームにようこそ』


必要があって、松尾スズキ監督の映画『クワイエット・ルームにようこそ』を観る。ついでに、同じ松尾による原作の小説も読む。文春文庫版で100ページちょっとの薄いもので、表紙がおしゃれだった。

自殺未遂とも事故ともつかない向精神薬とアルコールのオーバードーズ(「ここではODっていうけど」)で、精神病院に入院して閉鎖病棟に入れられた若い女性が主人公。彼女の入院から退院までの約2週間を描いている。同居人の男性でお笑い系の放送作家の「鉄っちゃん」とその助手が面会に来ること、主人公の口から語られる自分の人生の物語があるほかは、精神病院の患者群像を描くことが物語の主たる部分。女子病棟ということもあって、摂食障害や自傷などの若い女性患者が多いけれども、強烈なえげつなさを持つ年配の女性患者もいる。映画では、大竹しのぶが、見ごたえがある怪演技で、このキャラクターを素晴らしい味にしていた。

主人公の周りでは、精神病から脱していく人も結構いる。摂食障害の少女はジグソーパズルを完成させて食事を完食するし、精神病院から医療刑務所(そんなものがあるんだ)に行った患者もいるし、どさくさにまぎれて脱走に成功した患者もいた。主人公についても、もちろん彼女が退院して話しが終わるわけだけれども、これは精神病から脱したというのとはちょっと違う。

精神病院の患者群像というのは、『17歳のカルテ』や『カッコーの巣の上で』はもちろん、画像表現としては、18世紀のイギリスの版画作家のホガースや有名なボッシュの「阿呆船」などにまでさかのぼることができる主題である。画像は、連作版画「蕩児一代記」より、悪行のはてに発狂した主人公が精神病院のべドラムで迎える終末。