人種地理学と気候

必要があって、人種地理学の資料を読む。文献は、グリフィス・テーラー『人種地理学 環境と人種』徳重英助訳(東京:古今書院、1931) これは、シカゴ大学教授、テーラーの Environment and Race (1927) を訳したもの。

原始人は徹頭徹尾環境によって支配されており、文明人は必ずしもそうではないが、やはり大部分は環境の統制下にある。他の動物のみならず、人間も同じ自然の統制を受けて生きていることを否定することはできない。
原始人は終始一貫して環境の変化に応じ進化移住したと考えられるが、それから人種型の分布を帰納していくと、19世紀時代書かれた民族史とは殆ど正反対のものを発見する。新しい人類学では最も原始的な種族はその人類進化の中心からもっとも遠いところに発見されることを教える。いかなる時代においても適者生存の原理が認められるが、人間の場合には弱者隠遁の語が必要になってくる。もっとも優れたる種族は、もっとも刺激の強い地方において進化し生存する。もっとも刺激の強い場所と言っても精神的発達を萎縮させるようなところではない。それかといってまたらんだに流れ独創力をそいでしまうような生活のいたって楽なところでもない。要は能率を最も高めうるほどの刺激をもつところを指す。(2-3)
とまあ、こんな具合に、温帯を文明の中心として、温帯とは違う気候のもとでは、人間は怠慢になり、熱帯の民族は能率が低い劣等な人種であるという議論が展開される。