書簡診療

必要があって、18世紀のパドヴァ大学の教授で偉大な病理解剖学者のジャンバティスタ・モルガーニの「書簡診療」の記録を読む。文献は、Morgagni, Gianbattista, The Clinical Consultations of Gianbattista Morgagni, the edition of Enrico Benassi (1935), translated and revised by Saul Jarcho (Boston: The Francis A. Countway Library of Medicine, 1984).

パドヴァ大学の教授であったモルガーニは1761年に出版された『疾病の座と原因について』で医学史に名を残している。それまで体の外側に現れる症状から組み立てられていた病気の理解を、死後の解剖にもとづく知見で支えようとしたこの著作は、さまざまな病気の症例を700件ほど集めて、その症状と病理観察を記した大作であり、パリの臨床医学革命の重要な先行者である。

そのモルガーニが、晩年の1771年に、彼の弟子でパドヴァの教授となる人物に、自分が行った「書簡診療」の記録を与えた。長い診療の経験の中から、自分のところに来た診療上の助言や判断を求める手紙と、それに対する返事などを、きっちり100件を選んで書き写したものである。偉大な医学教授の診療記録であるから、出版して広く知らしめようという動きはあったが、実際に印刷されたのは1935年、そしてこの英訳はその50年後である。

この書簡は、屍体を相手にした病理解剖とまったく違う医学的知識の構造が刻み込まれている。書簡だからあたりまえだけれども、基本は「言葉」である。医学が「言葉」に依存していた時代に、どうやって診療していたのかということを読み解くのに最適な資料である。