吸血鬼と医師と貴族について―バイロンの侍医ポリドリによる怪物の創造

The Public Domain Review より、「吸血鬼」という怪物の形成について、面白い記事。

 

「吸血鬼」(vampire)は、現在の欧米と世界で最も著名な怪物である。この概念が文化のメインストリームに乗ったのは、19世紀の初頭である。具体的には、バイロンの大陸旅行の際の侍医であったイタリア系のイギリス人の医師であるジョン・ポリドリがJohn Polidori が物語に仕上げたのが、その誕生である。そして、この物語をポリドリが作り上げたのは、1816年にジュネーヴに近い湖畔の村であり、そこでは、バイロン、ポリドリ、そしてP.B. シェリーとメアリー・ゴドウィンが集まった場所であり、周知のように、そこでメアリーがもう一つの著名な怪物であるフランケンシュタインを作り上げている。吸血鬼とフランケンシュタインは、バイロンを軸とするジュネーヴのゴシックの夜に同時に生まれている。(ケン・ラッセルの映画『ゴシック』をもう一度観てみよう)

 

この記事は、侍医であったポリドリを軸に据えて、当時の医学と医療を吸血鬼の形成の中に位置づけるだけでなく、ポリドリが雇用者のバイロンに抱いた敵意にも注目している。バイロンは貴族であり、ポリドリは医師として雇用されている側であった。ポリドリは医学だけでなく文学などについてもそこそこの野心を持っており、一方でバイロンは彼を雇用されている侍医として扱い、時として冷酷であった。当時は、医学と上昇と医師のステイタスの向上に向かう時期であり、フランス革命の身分の平等の理念も広められていた。ポリドリが、自分が作り上げた吸血鬼を、冷酷で人の血を吸って生きる貴族として設定しているのは、歴史的な文脈と個人的な文脈に基づいたバイロンへの敵意が存在していると考えられる。

 


The Poet, the Physician and the Birth of the Modern Vampire | The Public Domain Review