中世の医学写本と患者の症例

グラズゴウの図書館が保有する、18世紀の著名な医師ウィリアム・ハンターが所蔵していた中世の医学写本に関する解説。オリジナルは、14世紀にイングランドで活躍した外科医のアーダーンのジョン(John of Arderne) この写本を詳細に研究したプロの中世医学史の専門家の筆によるもので、一般向けではあるが、非常に読み応えがある記述になっている。美しいマージナリアもふんだんに用いられているし、こういう水準が高いサイトを提供できればと思っている。

メモを二つ。一つは、アーダーンが書いている理想の外科医について。もちろんこの時期の外科は、基本的には手仕事の職人の段階で、アーダーン自身も大学は出ていない。ガレノスとかアヴィケンナとかいうけれども、ラテン語は不安定で方言か多言語的なものである。そういう人物が書く理想の外科医というのは、まじめで礼儀正しくて謙虚で、という質朴な職人像である。楽しい話をたくさん知っていて、患者を笑わせることができるというのが、根が明るい楽しい人のことを言っているとか、麻酔も何もない苛烈な外科の時代に、激痛に苦しむ患者に笑い話をかませろというダークな皮肉なのか、どちらかわからない。

もう一つは、患者の症例について。このテキストの末尾には14件の症例が入っている。書かれた当時は生きていた患者の疾病と、優れた技法による治療に関する生き生きとした記述であるとのこと。この写本にももちろんその症例が付されているが、興味深いことに、後に入れるはずであった患者の顔の肖像の部分が空白に残されていて、結局書いていないとのこと。この疾病は、おそらく、ヒポクラテス風ではなくガレノス風の症例で、治療の成功が描かれているものだと思われるが、そこで肖像がどのような意味があったのか、考えるヒントになる。

 

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