大阪帝大とインドネシアの精神病 Amok の研究

江川昌一・杉原方・細谷純之助「いんどねしやの精神病 Amok に就いて」『大阪医事新誌』 14(1943), no.3, 250-254.
大阪帝大の精神科と内科の医学士がインドネシアの精神病について書いた論文を読む。戦前の大阪帝国大学は、長崎や台北とならんで、熱帯医学の研究拠点が形成されていたが、それと関係あるプロジェクトなのだと思う。Amok というのは、まず目の前が暗くなるような印象を持ち、剣をもってそばにいる人を刺したり、路上で人間や動物を攻撃したりする。それは自殺におよぶこともあるものである。

基本的には、まだインドネシアにおける彼らの研究がはじまったばかりであり、速報的な性格が強いが、これまでの Amok についての文献を引き、クレペリンやクレッチマーの概念を使って、症候性精神病として分析している論文で、戦前から戦後にかけての日本の精神医学の概念的な水準の高さを示している。5例の Amok の例が引かれ、去勢恐怖を伴う動脈硬化症、ホームシックを含むヒステリー、ホームシックを含む破瓜症、性格変換を含むパーキンソン氏病、そして去勢恐怖を含む破瓜症である。ここには、Amok がさまざまな疾病と重なって現れることを示している。1例・5例に去勢恐怖があることは、原始的な民族における生殖の重要さと去勢が与える恐怖を示している。