『コレラの時代の愛』

台湾での二つの講演を終えた。どちらも初めて書下ろす講演で、授業の準備などと並行しながら、リサーチをして議論を二つ作り出して書き下ろすのはとても大変だったけれども、どちらも手ごたえがある議論を作り出すことができた。これで今年の仕事が終わったので、今日は、久しぶりに、仕事をしない日曜日を過ごして、小説を読んでいた。

『コレラの時代の愛』は、主要な登場人物の一人が医者であり、また、表題が示すとおり、数十年に及ぶ時代をカバーするストーリーの随所に、それがコレラが流行している時代であることを示すエピソードが挿入されているので、医者や医療関係者や医学史家に人気がある作品であり、私もいくつか好きな場面がある。もちろん医学や病気の話が出てくる部分も興味深いけれども、私が一番好きな部分は、女性主人公のフェルミーナ・ダーサが、男性主人公のフロレンティーノ・アリーサへの恋が幻想であると気づく部分で、それにいたるまでの「買い物」の場面である。

登場人物の医者、ウルビーノ博士が読む書物として、アレクシス・キャレル『人間この未知なるもの』が登場している。69

ウルビーノ博士は、パリで医学を学んだが、その時に、アドリアンプルーストという教師に習ったという設定になっている。このアドリアンプルーストは、有名な小説家のマルセル・プルーストの父である。調べてみたら、実は、アドリアンプルーストは『コレラについて』という著作があった。