『科学警察』



レオン・ルリッシュ『科学警察』浅田一訳(東京:白水社、1952)

必要があって、「科学警察」というタイトルのクセジュ文庫を読む。訳者の浅田一は、1887年生まれ。東大の医学部で法医学を学び、長崎の医学校や東京医科大学の教授となる。国警本部科学捜査研究所顧問。医学者であると同時に、多作なもの書きでもあって、私も浅田が書いたものを読む機会が多かった。リサーチというほどのものではないが、ちょっと浅田の仕事をまとめて読んでおこうと思って、いろいろと取り寄せて読んだものの第一冊である。

「科学警察」という言葉から、ガッチャマンみたいなものを連想してしまうが、これは、刑事訴訟でいうところの証拠のうち、自白や証言ではなく、「犯跡」というものを扱う学問を指す。犯跡を発見し、解読し、これより生じる証拠を判定する学問を「科学警察」または「犯罪科学」という。(ちなみに、「犯罪学」というのは、犯罪と社会の関係を問う学問を言う。)

ある人をその人と分からせるものを「個人識別」という。これも、長い間は、自白でなければ証言だけが頼りであった。たとえば、再犯者が、もともとの名前を隠して刑務所に入った場合、刑務所の所員による証言か、囚人による証言だけが、彼を識別するただ一つの決め手であった。そこから、身体の特徴を合理的に記録して個人識別を可能にしようとする試みがはじまり、19世紀には、指紋をはじめ、いろいろな道具が現れたが、ベルティヨンが1880年代の導入したのが、アントロポメトリーと呼ばれる、身体各部の長さを測定する方法であった。しかし、これは身体が成長する少年には全く役に立たなかったため、ベルティヨンは「ものいう写真」と呼ばれる方法を編み出した。これは、一言で言うと、漠然とした印象の言葉で語られていた人の顔貌を、科学的な正確さとともに記述する方法である。たとえば、ケトレーの統計学の原理を用いて、身体の各部については、とても小さい、小さい、やや小さい <中間値> やや大きい、大きい、とても大きいという六つに分けて、記述する。その他にも、顔面の傾斜や目や髪の色などについても、厳密に記述するシステムをつくりあげたものである。

写真は、ベルティヨンとゴルトンが、犯罪者風に撮ったもの。